小路 幸也
HEARTBLUE (ミステリ・フロンティア 40)

【ある虹の朝、ニューヨークの失踪人課の男のもとへ、一人の少年が訪ねてきて言った。
「ペギーがいなくなったんだ」と。彼の捜す少女は、一年ほど前から様子がおかしかったというのだが――。
一方、男の知り合いであるCGデザイナーの日本人の青年も、ふとしたきっかけからある少女の行方を追い始める。二人がそれぞれ動いた末に明らかになった真実とは――。
想いあう気持ちがみちびいた、哀しい現実に胸が締めつけられる、著者待望の書き下ろし長編。 】


所々で出てくる<あいつ><彼>、加えて“日本人の青年”の名前が<メグリヤ>、一行だけ出てくる電話の相手が<ヤオ>、
最後に<暗闇>から地上に上がった少年サミュエル。
タイトルから予想が付くように、「HEART BEAT」の続編と打っても可笑しくないくらいの符号。

舞台はN.Y. 主人公は警察官のダニエル・ワットマン。
幼い頃に姉を亡くし、母を亡くし、2人の面影すらはっきりとしない少年期、同じ警察官である父を尊敬している面白みがないほど真面目と言われる青年です。
訊ねるのは少年とは思えないほどのふてぶてしさと大人顔負けの能力を持つ地下での経験を持つサミュエル。
調べるのは少年と同じ境遇であり先に地上に出たペギー。
ひとりの少女の自殺。胡桃のキーホルダー。そして彼女が見ていた“悪夢”。

メグリヤをそれらに引き寄せたのは一枚の写真に写る、あるはずのない人影。
友人である写真家、かんなが撮ったのは偶然にも<あいつ>で繋がりのできたワットマン。
階段に腰掛ける少女は彼に親しげに微笑みかけている。



決して気持ちの良い繋がりではないダニエルと巡矢ですが、今回はハートビートよりも早く二つの事件の繋がりが見えてきました。
尊敬する父の部屋で見つけたチャイルド・ポルノ。
かつて父が救ったストリート・チルドレンの少女。


柔らかく粋な文章ながら、決して真実から目を反らさない。
父親が犯した罪。愚者の奔走。亡くなった者を介しての細い糸。
死して後、これほどまでに絶大な影響力を与えた人物。
彼がみんなの中に居なければ動くはずもなかった記憶が、明かされました。
しかも話は暗いだけでなく、「スイッチ」や「オーラ」、信頼の置ける同僚や気さくな隣人など、自然と微笑んでしまうエピソードも含まれています。

明るみに出た「それ」を背負いながら、それでも生きると言った彼らに祝福を。
サミュエルとレベッカが可愛くてカッコよくてしょうがありません。勿論ダニエルも素敵です。
事件自体はハートビートを読まなくても勿論不都合なく解決――落着していますし、深い所までではなくともオサムのことに触れていますが、もし読み終わった後でサムをもっと知りたいと思った方は、「HEART BEAT」をどうぞ。
最後の一行がじんわり胸に込み上げます。