人生の教訓: 「電車のためには走らない」 (「酒は飲んでも飲まれるな」ではなく) | 紺ガエルとの生活 ブログ版日々雑感 最後の空冷ポルシェとともに

人生の教訓: 「電車のためには走らない」 (「酒は飲んでも飲まれるな」ではなく)

直近とある本を読み返していて、印象深い記述があったので訳してみる。
(この本を再読できたのは、ロタウイルスにかかって唯一良かったことだ。)

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私はかつて人生を変えるようなアドバイスを受けたことがある。
それは様々なことに当てはまり、賢明で、経験的にも正しい。
小説家志望の私の同級生が、地下鉄に飛び乗ろうと私が走るのを制していった言葉だ。

「わたしは電車のためには走らない」

定められているかに見える自分の宿命を、鼻であしらえ。
私は遅刻しないために決して走らないよう、自分に言い聞かせてきた。
これはほんの小さなアドバイスのように思えるかもしれないが、効果がある。
決して電車に駆け乗らないことによって、私は上品であることの真の価値と、立ち振る舞いについての美学と、自分自身が自分の時間や自分の予定そして自分の人生をコントロールしているという感覚を味わった。
電車を乗り逃して苦痛なのは、それを追いかけているときだけだ!
同様に、他人があなたに期待している成功を追い求めようとするから、それに合わせられなかったとき苦痛を感じるのだ。

あなたは人生の競争と上下関係から逃げ出さなくても、それに立ち向かうことが出来る。もし自分でそうすることを選択すれば。

高い給料の仕事を辞めることは、もしそれがあなた自身の決断であれば、稼げたはずの金の効用よりもよい選択だったと思えるだろう(狂っているように思えるかもしれないが、実際私はそれを試してうまくいってる)。
これは、禁欲主義者が宿命に対してくそ食らえというための最初のステップだ。
自分自身で自分の価値尺度を決めれば、自分の人生をより自分自身でコントロールできる。

母なる自然は、我々に自分を守るメカニズムを与えた。
我々のその能力の一つは、イソップ物語にあるように、手の届かない(届かなかった)ブドウは酸っぱい、と考えることである。
しかしブドウを見下し拒否するよりも、積極果敢な禁欲主義者でいることの方がより報いが大きい。
挑戦的であれ。もしガッツがあるのであれば辞めてしまえ。

自分自身で準備したゲームで敗者となることは極めてまれだ。

ブラックスワン用語で言うと、起こり得ないとされているものがあなたをコントロールすることを許しているときだけ、あなたはブラックスワンのリスクに曝されている。
あなたは常に自分のすることをコントロールしている。だから自分の人生を自分で常にコントロールすべきだ。


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もうおわかりかと思うが、この文は、ナシーム・ニコラス・タレブの「ブラックスワン」の最終章からの引用である。
この本は2007年春に刊行されたが、未だ邦訳が出版されていない。
出版されてから金融危機がやってきて、日本でも多くの人が黒い白鳥の話題をするようになった。

でも本書に書かれていることを正確に理解して、ブラックスワンという言葉を使ったりタレブ批判をしている日本人はあまりいない。

「ブラックスワンって、確率は超低いけれど、当たると大きなリターン(リスク)があるイベントでしょ、年末ジャンボ宝くじみたいな。」とか。
「『まぐれ』では成功は全て運である、って書いてあるけどそんなことないよね」、とか。

ちょっと違うが、ブラックスワンでも何度も言及されている数学者マンデルブロの「禁断の市場」の訳者であるにもかかわらず、「ラプラスの悪魔」みたく「データを収集して分析することによって、今回の金融危機を史上最後のものに出来る」、みたいなことを新聞に偉そうに書く人がいるのには頭が下がる。

この御仁がブラックスワンの翻訳手がけてたら、超笑うのだが。
おそらく「まぐれ」の訳者、望月衛氏が手がけられているのだと思うが。
(「まぐれ」の訳者あと書きに、「近々続編の邦訳が出る」との記述があった)

望月さん、早く翻訳して一人でも多くの人に読んで貰えるようにしてください!お願いします。

上に訳出した部分は、本書で最も訳しやすい部分の一つで。
実際自分で他の箇所も訳してみているのだが、これが結構大変なのだ。

金融工学、物理学、統計学、行動経済学、認知心理学、ギリシャ古典文学などに対して一通りの知識がないと、綺麗に訳せない上に。
文章の構成が、複層的なので。

著者の意図に忠実に日本語にする作業は、極めて大変であると言うことは理解しております。
何だったら私が下訳します!(もう一部終わってます)

The Black Swan 2007年4月 2249円
紺ガエルとの生活 ブログ版日々雑感  最後の空冷ポルシェとともに-The Black Swan


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(違った切り口でタレブは不確定性原理をやっつけてましたが)