初めて見た韓国代表のクァク・ミンジョンが、少し線は細いけれど、はにかんだ笑顔が素敵なスケーターで、これからの成長が楽しみだね、という話を韓国メディアの友人にしたところ、
「いやいや、それより日本のハルカ・イマイだよ! 僕は今回、彼女の滑りを初めて見たんだ。もう、かわいいじゃないか!」
 などという会話になったので、ちょっとうれしくなってしまった。
 初めて見るお互いの国の若い選手をそれぞれチェックして、それぞれにファンになる。そしてそれぞれの情報を交換し合う。そんなことが、アジアの記者同士でできることがまずうれしい。
 そして今大会、今井遥はまた新たなファンを、しかも海を越えて獲得してしまったことが、さらにうれしい。国内でどんどん成績を上げて来た選手が、今度は世界の舞台で少しずつ頭角を現していく、世界中が私たちのよく知る日本の選手たちに注目していく……浅田真央、小塚崇彦、これまでもたくさんの選手たちがそんな楽しみを私たちに与えてくれたが、まだまだチームジャパンの勢いは止まらない。
 ソチに向けて、今井遥もいいでしょう? 楽しみでしょう? 
 同じ国の選手というだけで、もうすっかり、こちらが鼻高々なのだ。

 そんな今井遥のフリーは、全日本選手権でも多くの人を魅了したバレエ音楽、「ライモンダ」。
 同じ滑走グループで、オリンピック代表の浅田真央や鈴木明子の滑りを手に汗握って見ていただけに、彼女が出てくると空気が変わったようにほっとしてしまう。「こんな子がひとりいると、いいですねえ」などという声が、まわりから聞こえてきたほどだ。
「今回は一緒に出るのが真央ちゃんだって聞いて、すごくびっくりしたんです。こんなチャンス、めったにないから、とにかく自分の力を出せるように頑張ろう、と思いました」
 全日本選手権などで着たものに、ちょっと袖の部分の飾りをつけてゴージャス感を増した水色の衣装は、清楚なイメージの彼女にぴったり。穏やかなほほえみを浮かべながら落ち着いた様子でスタートしたが、跳びたかった冒頭のダブルアクセル-トリプルトウが単発になってしまうと、思わず苦笑いを見せる。
「アクセル-トウ、公式練習の曲かけでも、6分練習でも、全部決めたんですよ。これはもう、いけるかな、と思ってたのに! きっと跳びたい思いが強すぎて、力んでしまって後ろのジャンプがつかなかったんだと思います」
 しかしその後のトリプルループは、リンクサイドで見守る長久保コーチの目の前できれいに成功させて、大きな笑顔。ジャンプが上手くいったりいかなかったりするたびに、気持ちが表情にに出てしまうのも、まだまだご愛嬌。
「出場することになって、始めのうちはフリーに進めればいいなあ、と思ってました。だから24人だと思っていたフリーを滑れる人数が20人だって聞いた時には、ショックだったんです。えー、なんで20人しか行けないの! って。そんなことを考えてたのに、最終グループに入ってしまって、もう、びっくり。最終なんて、まったく! 考えてなかったんです」
 などと、ずいぶんジュニアらしい、欲のないことまで言ってしまう。


 しかし演技中の表情も試合に向かう気持ちも、まだジュニアジュニアしているのかと思えば、そればかりでもないのが今井遥だ。
 長い手足を自在に使う、異国のお姫様のようなエキゾチックな舞姿は、やはり多くの人を惹きつける美しさがある。キャッチフットのスパイラルなど、エレメンツもどんどん上手になっていき、見るたびに洗練されているのに驚く。
 そしてまた、気持ちの面もいつまでもジュニアイッシュではない。
「ショートプログラムの5位はすごくうれしくって! フリーに進めるだけでもうれしかったのに、最終グループだったんですよ。でも総合の5位は……終わった瞬間は、失敗したジャンプ以外は落ち着いてできたなって、満足だったし、ああ終わったあ! ってほっとしていました。でも一晩経ってみたら、だんだんだんだん悔しくなっちゃった。ああ、悔しいなあ。アクセル-トウも決まらなかったし、なんで失敗したんだろう、って! フリーは、もうちょっとできてたのになあ」
 なんだか悔しくて悔しくて、早く次の試合をしたい、とでも言いたげだ。
 技術は、どんどん成長中。ファンもここにきて、さらに増やした。
 そして、いい意味での欲も出てきた。
 こんなに収穫の多い四大陸選手権を経験した今井遥――彼女自身だけでなく私たちも、彼女の次の試合が、大いに楽しみになってしまうではないか。