2011年 イラン
今年度アカデミー賞 外国語作品賞受賞
テヘランに住むナデル(ペイマン・モアディ)とシミン(レイラ・ハタミ)の夫婦。
妻レイラは11歳の娘の将来を考えて国外に移民することを決めましたが、
自宅には夫の認知症の父親がいるため、ナデルは反対。
意見が合わなくなった二人は離婚することになり、シミンは家を出ます。
一方、家政婦ラジエーと揉めたシモンは彼女を押し倒してしまい、
ラジエーが流産したと聞いた彼女の夫は激しくナデルを責めます。
「彼女が消えた浜辺」のアスガー・ファルハディ監督作品。
私はこの前作はあまり好きでは無いのですが、
今回は数々の賞を受賞した作品という事で劇場に足を運びました。
保身のための小さな嘘が大きなテーマになっていますが、
私にとっては介護問題も他人事では無かったのです。
ヘルパーが他人の男性の世話をするのに、宗教関係者の許可がいるのに驚きました。
今や日本では、嫁がひとりで夫の親の介護をするのは妄想だそうです。
籍を入れない結婚ユニオン・リーブルが多いフランス人もビックリだと思うし、
北欧でも墓場まで国が面倒を見てくれるのよね。
しかし、イランでは介護の制度が整っていないようです。
おそらく妻シモンは介護の負担や子供の将来を思いイランを出たかったのでしょう。
また、妊娠中の女性をヘルパーとして雇うのもビックリ。
それだけ介護の人が足りないのですね。
イランのその辺の事情を目のあたりにしました。
また、イランでは妊娠中の女性の胎児を死なせてしまうと殺人罪になるのです。
だったら、先日京都で起きた交通事故も殺人罪だわ~なんて思ったり…
揉め事となった一つの事件。
ラジエーが嘘をついているか否かは後半にならないと分かりません。
一方、アデルが彼女を突き飛ばしたかどうかは観ていて分かります。
結局2組の夫婦の揉め事は行きつくところまで行ってしまうのですが、
映画の冒頭で実家に帰ってしまった妻のシモンは、
夫と家政婦の起こした事件を冷静に見つめなおそうとします。
ちょっと他人ごとに見えたな~
それでも法律と宗教が絡んだこんなバタバタ劇を目のあたりにしたら、
やっぱりこんな国をを出たいと思う気持ちも分かります。
イランに限らず、人間は自分が置かれた状況もあって、
保身のための嘘をついてしまう生き物ですね。
これはどうしようもないことだと思います。
ただその嘘の犠牲になる人がいる場合もあり、
この作品で一番かわいそうだったのはアデルとシモンの一人娘のテルメーでした。
彼女は父親の揉め事に付き合わされ、心が傷ついたうえ、
結局は父か母のどちらかを選ばなければならなかったのですから。
テルメーの答えは映画の中では出てきません。
観客に委ねていいるのでしょうが、
私は確信が持てました。
監督が言いたかったこと。
それは小さな嘘の奥に隠れたイランの実情だと思います。
負の連鎖を想像すると、今のままではテルメーには明るい未来は無いわ
終始緊張した場面が続きますが、
一か所だけ微笑ましいところもあります。
また、ラジエーの小さい娘さんも可愛かったわ~