2008年 トルコ・フランス・ドイツ・ベルギー
イスタンブールに住むきょうだい、ネスリン(長女)、キュジン(次女)、メクネット(長男)。
故郷に一人で住んでいた年老いた母ヌスレットがアルツハイマーになり、
都会に引き取ることになりました。
しかし、3人それぞれ生活に悩みを持っていて、母の世話もおろそかに。
そんな中、非行に走る長女の息子が祖母に関心を持ち、
老人ホームに入った彼女を連れ出してしまいます。
トルコはエキゾチックで明るいイメージの国ですが、
ウスタオル監督のこの作品は、
前作「雲が出るまで」同様、終始霧のかかった重苦しい映像です。
ギリシャ神話で御馴染みのパンドラの箱。
様々な問題を抱える家族の中に、アルツハイマーの母が飛び込んでくる。
それが彼らの心の中をかき回しながら、
拡散するのではなく、ひとつにまとまっていくストーリーです。
とは言ってもそこまで映像で見せてくれるわけではなく、
ただ、長女の夫婦関係や子供との確執が改善の兆しが見えてきたのと、
次女が恋愛問題の苦しみから逃れられたであろうということが察せられます。
一方、弟の生活が今後どうなるのは予測が付きませんでした。
親のアルツハイマーをその過程に乗せたのは、
現代の私たちの予想できる問題でもありますね。
わけも無く泣いたり怒ったり、
風呂やトイレもままならい老人を、
自分のことで頭がいっぱいのきょうだいたちが世話をするのは大変なこと。
初めは老人施設へ入れることを、
世間の目を気にして躊躇するのはどこの国も同じなのでしょうか。
アルツハイマーと言っても、このおばあさん時々ドキッとすることを言う。
たま~に笑うこともあります。これが何とも可愛い笑顔です。
また、フランスパンをかじるシーンがありますが、
孫のムラットがそれを見て一瞬ニヤリとするのです。
歯が丈夫でないとこの硬いパンは食べられないと思う。
その老女役のツィラ・シェルトンはフランス人の女優だそうです。
本作のためにトルコ語を覚えたとか。
すご~い女優魂です。
現代の悪が渦巻く都会の中で、
老女が与えてくれたものはまさしく希望でした。
普段何だかの悩みを抱える中で、
家族のアルツハイマーと直面してしまったら、
その後どうやって生活をしていったらいいのか、
考えさせられる作品でもありました。