クララを連れて向かった、週末のおしゃれタウン。
気候に恵まれたその日は、家族連れとカップルで賑わっていた。
すると、20代後半とおぼしき一組のカップルが近づいてきて、彼女のほうが声を掛けてきた。
「触ってもいいですかぁ？」
彼氏のほうは、どうやらクララがこわいらしく、万が一リードがめいっぱい伸びても届かないところで立ち止まっていた。待ちぼうけをくらう彼氏に悪いなと思いながら、私は「どうぞ」とクララを座らせた。
「わ～、かわいい～
」
終始若干ブリッコが入っているが、デートだから仕方が無い。私だって、そういう時期が・・・あったかどうかももう思い出せないが、そんな彼女のことをかわいいなと思える余裕は持ち合わせている。
彼女はよほどクララが気に入ったらしく、クララを撫でながら尋ねてきた。
(彼女)「何犬なんですか？」
(私)「グレートデンですよ」
「すごーい。初めて会いました～。男の子ですか？女の子ですか？」
「女の子ですよ」
「女の子なんだ～。お名前はなんて言うんですか？」
「クララです」
「かわいい名前～。体重はどれくらいなんですか？」
今考えれば、この質問が鬼門だった。
私が「45kgですよ」と答えた途端、彼女の目の奥がキラリと光り、私の耳にはサッカーのキックオフの笛が聞こえた（ような気がした）。
彼女は”45kgの犬”という言葉をボールに見立てて、自らの声のトーンとボリュームを２レベルほど上げて、こう言った。
「えー、私より重いんだ―！」
おしゃれタウンに響き渡る彼女の声、膨らみ続ける彼女の鼻。
華麗なドリブルは続く。
「信じられなーい。私より重ーい！」
それでも確かに、犬が自分より重いだなんてフツ―ではありえないこと。驚くのも仕方ないよなと思っていると、彼女は少し離れて立つ彼氏に、パスを出した。
「聞こえた～、カズ君。」
スマホをいじっていた彼氏の反応は悪い。すると、彼女はここぞとばかりに彼からボールを取り上げて、ゴールを狙った。
「この子ね～、私より重いんだって～」
瞬時に事態を飲み込めない彼氏。
彼女が決めた一発は、ゴールポストに当たって外れたようだ。それすらもシメシメと思い始めているような彼女は、再度ボールを拾って、シュートポジションに入った。
「だから～、この子ね、45kgもあるんだって」
そのまま決めても、十分にゴールを決められるであろうに、彼女はあろうことかボールを天高く蹴り上げた。そして、決めたのだ。幻のオーバーヘッドシュートを！
「ねー、カズ君、この犬、私より重いんだよーーーーー！！！」
「へー、すごいね」というカズ君の気の無い返事が、試合終了の笛の音に聞こえた。
何回、言うねん。
【2019年6月追記： 私はドッグライフセイビングと、根本的な動物保護活動の信念と、動物と人間に対する姿勢の相違により、2017年10月に全ての関係を断っています】
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊