修羅の血涙は地面を染め上げ
一輪の華を咲かせる


~修羅 第壱章 『盤上』~




草木も眠る丑三つ時

狐面をつけた一人の男が、張り番に見付かることもなく、ある屋敷に侵入した。

「生温い警備だな」

嘲すように呟いた後、男は最奥にある部屋に入っていく。
しかし入った途端、男は銀色に光るものを向けられた。
しかも一つではない。

「ハッハッハ!!わしが何も知らないとでも思ったか?貴様が此処に来ることぐらい、知っておったわ。馬鹿め」

そう言って笑う一人の男。
しかし侵入した男は、動揺する所かくつくつと笑い出した。

「ククク……。知っていただと?手前は何も分かっちゃいねェ。今宵は月が出てる。きっと血がよく映えるだろうなァ……浅間健造さんよォ」

楽しそうな声音に、浅間健造と呼ばれた男は笑うのを止め、顔を強張らせた。
刀を向けていた者達も、動揺を隠せない。
状況は何も変わっていないというのに、男が口を開いただけで空気が変わったのだ。

「(何という男だ……これが“修羅”!!)」

健造は青ざめ、唇をわなわなさせて後退る。
先刻大笑いしていた時とは、丸で別人のようだ。

「安っぽい劇はここまでだ。観客はこんなものじゃあ、満足しやしねェ。俺が見せてやるよ。最高の惨劇をなァ!!」

男がそう言った刹那、血しぶきが上がり、周りにいた者達は人形のように倒れた。
あまりの出来事に目を見張る健造に、男は血刀を向ける。

「ま、待ってくれ!!欲しいものは何でもやる!!金か?女か?地位か?」

「殺さないでくれ!!」と叫ぶ健造に男は容赦なく刀を振り下ろした。
声もなく崩れた健造を男はつまらなそうに見た後、障子を開けて月を見上げた。

「嗚呼……やはりよく映える」

部屋の中は、月光に照らされて不気味に輝く血の海だった。