~愛逢月 第弐章 『吉原』~




「闇鴉、今回の事件の情報を持っているかい?」

挨拶も早々に尋ねる勒七。
そう、勒七の言った彼所とは、闇鴉の家だ。

何かあった時に、何時も情報をくれる闇鴉。
しかし、今回も協力してくれるだろうと思っていた悠助達にとって、次の瞬間、思いも寄らない言葉が返ってきた。

「……知らないねえ」

悠助達は思わず己の耳を疑った。

抑揚のない其の言葉を、素直に受け入れられない。
何より、闇鴉の表情に声が出なかった。

泣きたいのをぐっと我慢しているような表情。
無意識であろう其れは、丸で大人びた子供だった。

「悪いね……」

闇鴉はそう言って、奥の部屋へと消えてしまった。
残された悠助達は、無言で闇鴉の家を後にした。










「どうしたのかしら……」

言わずもがな、闇鴉のことだ。
しかし、納得の出来る答えを出すことは難しい。
妙な沈黙が悠助達を包んでいた。

「旦那!!」

沈黙を破ったのは、水無瀬の親分だった。
駆け寄ってきた親分は、何やら浮き浮きしている様子。

「あの煙管の情報が吉原にあったんでさぁ!!おっと、いけねえや。今から行ってくるんで、失礼しやす」

そう言って駆けて行く親分を、悠助達は唖然として見送る。

今更だが、親分は結構御喋りだ。

「口が軽過ぎやしないかい」

「だが、行くべき場所は決まったな」


行くべき場所は

遊里 江戸吉原