織女の五百機立てて織る布の
秋さり衣 誰か取り見む
~愛逢月 第壱章 『新たな事件』~
羅刹の事件から一年
短かったような長かったようなこの一年。
随分と変化があった。
江戸は活気のある町に戻ったし、悠助と綾菜は夫婦(めおと)になり、江戸に腰を落ち着けた。
けれど、寂しいこともあった。
椿が成仏したことだ。
勒七からの文で其れを知った悠助達は、非常に驚いたものだった。
“車に乗りて百人ばかり天人具して昇りぬ”
勒七の文の一節である。
「参ったねぃ。これで五人目だよ」
愚痴を溢している一人の男。
水無瀬の親分と呼ばれている岡っ引きだ。
親分が持っているのは、瓦版。
女子が行方不明になったことを伝えている其れを、じっと睨み付ける。
親分がため息をついた時、新たな声が聞こえてきた。
「水無瀬の親分、幸せが逃げてしまうよ」
「嗚呼、悠助の旦那ですかぃ。良いねえ、旦那は幸せそうで」
声の主は悠助だった。
容姿は変わっていないが、顔付きは一年前よりも穏やかだ。
「幸せそうに見えるのか?」
「美人の妻がいるじゃありやせんか。羨ましいねぃ」
悠助は思わず苦笑いした。
何せ親分にも、勿体無いくらいの美人の妻がいるのだから。
しかし、そのことを悠助が言おうとした時、一人の男が駆け寄って来た。
「水無瀬の親分!!また一人いなくなっちまいやした!!」
親分が瓦版を落としたのは、言うまでも無い。