このマンガ、高橋ヒロシの「QP外伝」の中の一編、「死神に出会った日」をベースにドラマ化する際、ストーリーをアレンジしたものをコミカライズした作品。
その為、原作の高橋ヒロシのほかに、ドラマの脚本を書いたやべきょうすけとNAKA雅MURAの名前が載っている。
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全4巻完結。

この作品、もともとは、斎藤工を主演に、深夜ドラマ枠で放送されてた時に少年画報社から書き下ろしのコンビニコミックとして途中まで発売されたが、ドラマの終了とともに、コミカライズものではよくある事だが、中途半端なカタチで発売されなくなり、放り出されていた。
自分はこのコンビニコミックから読んでいて、よくある事だとわかってはいても、読者を一方的に突き放すような、昔ながらの出版社の無責任な販売体質はなんとかならないものかねえ。
そんな埋まっていく作品の多い中、この作品は運のいい事に放り出されてから数年後、秋田書店に拾われ、なんとか単行本でも最終巻まで発売された作品である。
とはいえ、この作品が連載されたプレイコミックは連載中に廃刊し、ラスト2話は同じ秋田書店から新創刊された別冊ヤングチャンピオンの創刊号に一気に掲載されるという特殊な終わり方だったけどね。

この作品のあらすじに入る前に、タイトルに「QP外伝」とあるように、「QP」は高橋ヒロシによる本編があり、今回の作品の主人公である我妻涼は、このQPのサブキャラクターであった。

主人公・石田小鳥(キューピー)が少年院を出所し、更正して地道に明るい道へと歩み出そうとするのと対照的に、かつての仲間でありながら、闇へと突き進む、孤独な破滅型のキャラクターとして人気があったようで、この作品の元となった「死神と出会った日」は本編完結後に「QP」我妻涼の後日談として描かれた外伝である。

できたら、今回の作品を読む前に、高橋ヒロシによる「QP」本編と外伝を読んでもらうと、より主人公の我妻涼というキャラクターの人物像と孤独感をわかってもらえると思うし、今回の作品と元作品との違いも楽しんでもらえると思います。

この物語は、「QP」本編で銃撃により、喉を撃たれ声を失い、瀕死の重傷を負いながらも生き延びた主人公・我妻涼
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が、流れ者の殺し屋コンビ、坊主頭のトムとツンツン頭のジェリー
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と共に地元から離れ、別の街のヤクザ組織、「天狼会」の頭(かしら)になっていたところから始まる。

この街には金になるならどんな悪どい事にでも手を出す横溝組と、昔ながらの地域密着型の老舗ヤクザ・古岩組、どちらの色にも馴染めないはみ出し者の集まりである天狼会があり、微妙なバランスで成り立っていた。

前の組長の事故死により、涼が頭になった事で、天狼会によるこの街の暴力社会の支配を目論み、ヤクザ勢力地図の均衡が崩れようとしている中、拳が壊れた事でプロボクサーを諦め、燻るように生きていた美咲元150319_092631.jpg
は、勤めていた店で我妻涼に出会い、涼の子分になる事を志願する。

天狼会に入った元は、涼達が天狼会に入る前からの古参の若衆・ヒコ
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に預けられる。

一度、元の兄が迎えに来るが、それを振り切り、ヤクザの道を歩く元は、まだ、この街にきな臭い匂いが漂い始めてる事に気づいていなかった。

ある夜、些細な事からヒコと元は横溝組の者達と揉め、この時は元ひとりで叩きのめす。

元が倒した中に横溝組の幹部がいた事で、横溝組のもつ利権を奪う為、その口実が欲しい涼達は、これをきっかけに緊張を募らせていく。

数日後、仕返しに来たやって来た横溝組の者達が持つ刃物に、ビビッた元は足が竦み動けず、その元を押しのけ、ヒコがひとりで応戦し、なんとか倒すが、この時、ヒコは腹を刺されてしまう。
自分の不甲斐なさを詫びる元に深手を負ったヒコは、ヤクザのケンカの厳しい現実を教え、田舎の兄のところに帰るよう諭す。

車を取りに一旦、ヒコのその場を離れた元。
その間に、何者かに雇われた殺し屋の手により、ヒコは殺されてしまう。
いつかの夜、元とふたりでした花火のように…。
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ヒコを殺した犯人が、さっきいざこざがあったばかりである事から横溝組ではないと感じた元は、火種を欲しがっていたもう一方の涼達を疑い、確かめにいく。
事務所でくつろぐ涼達にヒコの死を告げ、真偽を確かめようとする元だったが、「答えを聞いたら後戻りはできない。ドロッドロの世界で生きる覚悟があるのか?」と逆に問い質されると、それ以上聞けなくなってしまい、涼が元の頭を掠めるように弾丸を一発放つと、その場にへたり込んでしまう。
涼は元の腹に容赦のない蹴りを入れると、トムとジェリーを連れ、事務所を出て行く。

取り残された元は、自分の無力感に苛まれながら、ヒコが死んだ場所に戻るが、警察と野次馬による人だかりができており、ヒコの遺体も既に搬送されていた。
不穏な空気を感じとり、様子を見に来ていた古岩組若頭の蜂屋兼光は、
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組は違っても弟のように感じていた元の姿を見つけ、元を連れてその場を離れる。

元から事の流れを聞いた兼光は、もうこの街で元にできる事はなく、ヒコの遺言を守り、故郷に帰るよう告げる。

涼達は、ヒコを殺された報復として、横溝組長の命を獲るべく計画を立て、行動を起こす。

しかし、その裏には横溝組若頭・喜多嶋と
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その参謀・君塚
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による横溝組乗っ取りの陰謀があり、もとは流れ者の殺し屋であったトムとジェリーも、横溝組長を殺った後、涼も始末したら一億円という約束で、ヒコが殺される前から既に買収されていた。

涼達が報復に動いてるその頃、そうとは知らぬ元は、今回の件を明らかにしようと、自分ができる事をする為に、警察に出頭していた。

横溝組長襲撃の夜、地下駐車場で予定通り、横溝組長と傍にいた組員の射殺に成功すると、後ろから涼の頭に、ジェリーの拳銃が突き付けられるが、すかさず涼はトムの頭に銃を向け、更にジェリーにも銃を向ける。
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対峙した三人だったが、見張り役をやらせていた子分が様子を伺いに来た事で、一気に銃撃戦に突入するが、パトカーのサイレンが聞こえてきた事から、巻き添えで犠牲になった子分を残し、それぞれに逃走する。
それぞれの傷が癒える頃、君塚がヒコを殺った殺し屋を涼に差し向けるが、逆に涼に殺られてしまう。
その場所で、偶然トムとジェリーと会い、場所を変えて、決着をつける事となる。

決着を着ける廃ビルに集まった三人だったが、そこに天狼会の前の会長を事故に見せかけ殺害した事がバレ、組を追われた古参組員が乱入し、熾烈な銃撃戦を展開する。

銃撃戦の末、トムが古参組員を倒すが、その隙を縫って涼はトムを銃撃し、
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撃たれた衝撃で、窓から飛び出す相棒の手をジェリーは掴もうとするが、その手は届かず、トムはビルから落下する。

トムの手を掴めなかった、ジェリーの後頭部に涼は銃口を突き付けるが、銃を捨て、素手の勝負を挑む。
ジェリーは、その銃を拾うが、その銃が弾切れになっていた事がわかり、あらためて、生死を賭けた素手での勝負が始まった。

古岩組の兼光がビルに入った時には、涼とジェリーの戦いは決着がついており、涼がジェリーの上に乗り、なにかに取り憑かれたように殴り続けていた。
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既に死んでいるジェリーを殴り続ける涼を止める兼光に、かつての親友、石田小鳥の匂いを感じ、振り返った涼の目からは涙が流れていた。
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兼光は涼に、この街に覚醒剤まで流してる横溝組を潰す迄手を組む事を持ち掛けるが、涼はその手を払い、ケガをした身体で呼んでおいた車に乗り込む。

そして、すべての決着を着けるべく横溝組に向かう途中、警察から出て、ヒコの遺骨を抱えながら兄のところに帰るTELをしながら歩く元とすれ違う。
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涼達によって殺された横溝組長の葬儀は、横溝組組員のほか、警察による厳重な警戒体制が敷かれる中、夜が明ける頃、涼がその場所に現れる。

そして、大勢の組員が囲む中、涼はひとり、日本刀一本で斬り込んでいく…。
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ここまで、長いあらすじを読んでくれた方(いるのかな?(汗))
ありがとうございます。

さて、前の方で書いたように、このマンガはドラマをベースにコミカライズしたものなので、高橋ヒロシのオリジナルとは違う部分がかなりある。

まず、古岩組とその若頭蜂屋兼光をはじめ、横溝組の組員達もドラマのオリジナルキャラクターで、高橋ヒロシのオリジナルにはないキャラクターである。
これは、高橋ヒロシの描いたのは、元の眼を通して、チンピラのはかなさと謀略と欲望でなにも信用できない涼のいる世界は憧れでは生きていけないし、涼は憧れの対象にはならないという事にたいして、ドラマの方は、アウトローという生き方しかできない我妻涼というひとりの人間を描いてるスタンスの違いから、敵役の明確化が必要だったのと、元の眼の代わりに兼光という抗争に直接関わらない人物が必要だったのだと思う。

自分としては、この我妻涼で描かれた世界は、高橋ヒロシの外伝の続きのひとつの可能性だと思っている。
我妻涼という人間は、もともと人を信用する人間じゃないし、本編での石田小鳥との別れから、ひとりで生きる道を進むだろう事は予想できる。
そうなると、トムとジェリーは、もとは自分を殺す為に雇われていたのを返り討ちにし、むこうの雇い主より高い金を払う事で仲間になった人間なので、このふたりもまた、自分達以外は信用しない人間なので、カタチは違っても、いつかはこの作品で描かれたように戦う可能性は十分ある。

また、この作品では涼がこの街を支配しようとした理由として、涼が祖父と過ごしたこの街を覚醒剤で汚した横溝組を許せないというのがあった。

同じように、この街を一緒に支配しようとしたトムとジェリーの裏切りが、涼にとってどれほどの怒りと哀しみだったかが、死んでるジェリーを殴り続けるシーンで描かれている。

高橋ヒロシは、カッコイイキャラクターを作る事には長けているが、そこに人間臭い深みを持たす事はできないマンガ屋だと、自分は思っている。
そこに手が加えられたのがこの作品で、より我妻涼というキャラクターを魅力的にしたと思っている。

この作品のテーマは、ラストに出て来る「QP」本編で出てきた、「オレは、ゴミみたいに流されてこの世界にいるんじゃねえ。これが、オレの生き方なんだ」
なのだろうと思う。

アウトローの世界で生きる男のマンガが好きな方にはおもしろいと思います。

そうそう、この戦いで生き残った我妻涼は、南米コロンビアに現れる。
高橋ヒロシの手からも、ドラマからも離れた、漫画家・今村KSKによる独自の我妻涼の世界が、「QP外伝我妻涼 デスペラード」として、現在、別冊ヤングチャンピオンで連載されているので、いずれ、この作品を取り上げる機会もあるかな、と思っています。