「蓮…俺がもうキョーコちゃんとのこと協力出来ないって言ったらどうする?」
楽屋で出番を待っている時、突然真剣な顔をして社さんが聞いてくるから、俺は面食らってまじまじと社さんを見た。
協力出来ないって言ったらどうする?
社さんの言葉を頭の中でゆっくりと反芻してみる。
社さんは、俺が最上さんのことを好きなのを知った上で、最上さんのスケジュールを把握して、ラブミー部に食事の依頼をしたり、2人きりになれるように時間を調整したりもしてくれている。
それが、出来なくなるってことか?
最上さんの仕事が忙しくて調整出来なくなった?
椹さんから、スケジュールを聞けなくなったとかか?
確かに最近の彼女の活躍は目覚ましい。
それは、芸能人として喜ばしいことだ。
会えないのは社さんのせいじゃない。
今は、最上さんと個人的に連絡をとることも出来るし。
でもどこか社さんの様子が変だ。
答えられなくて、困惑気味に社さんを見る。
暫く見詰め合ったまま、楽屋は静寂に包まれた。
「嘘だよ・・・」
先に言葉を発し沈黙を破ったのは社さんだった。
さっきの真剣な表情は何処へやら、クスリと笑って、真っ直ぐ俺を覗き込んでいた視線を逸らし、簡易椅子から立ち上がった。
スタジオの様子見てくるな。そう言って、部屋を出て行ってしまった。
いつもと違う社さんが心配になって、社さんが出て行ってから、俺も後を追うように部屋を出た。
携帯電話を耳にあてながら足早に歩く社さんに躊躇い、声をかけられないでいると社さんはスタジオを通り過ぎていく。
何処に行くんだ?
廊下の角を曲がると奥の部屋から人の声がした。
少し開いたドアから中を覗くと社さんの姿がある。
誰かと話してる?
「ねぇ…キョーコ。俺たちのこといつ蓮に言おうか?」
「でも……何て言ったらいいのか」
「いつまでも隠しておけないよ?」
「でも…社さん」
「社さんじゃないでしょ?」
「………倖 一 …さん」
「うん、まぁ良しとしようか」
聞こえてきたのは、信頼しているマネージャーと愛しい最上さんの声。
はにかんで顔を赤くし、可愛らしく笑う彼女の頭を社さんが悪戯っぽく笑いながら、撫でている。
最上さんは社さんが触れるのを素直に受け入れている。
なんだ?
この会話。
2人は付き合っているのか?
突然の状況に頭が全く働かない。
考えが纏まらない。
愕然として俺はその場に立ち尽くした。