「ぼーっとして歩いてたけどどうかしたの?ロケ疲れた?」
「ロケって…どうして?」
「ああ、今日控え室で君が映ってる番組を見たから…初詣の」
「あっ!見ていらしたんですか!?」
「うん…赤い着物が、最上さんによく似合ってたよ」
「あ、ありがとう・・・ございます」
蓮の蕩けた笑顔にキョーコは顔が林檎のように赤くなり狼狽える。
それを蓮は可愛いなと思っていたが、キョーコは別のことを考えていた。
蓮は、今日何人の女性に同じことを言ったのだろうと。
胸が痛くなるのと同時に、こんな自分にまで優しい言葉をかけてくれる蓮にとても悲しくなった。
長い間、見て見ぬふりをして、何度も鍵をかけ直した箱は、歳を重ねるごとに、鍵穴が塞がっていき、そしてある日とうとう鍵が入らなくなってしまった。
蓋を持ち上げてしまえば。
自動ドアのように自然に開いてしまえば。
蓮への想いは溢れ出す。
日に日に募る恋心と、日に日に強くなる先輩・後輩の絆。
想いを告げて、この関係が壊れてしまうのが怖かった。
蓮に拒絶されたら、そう思うと後輩というポジションを手放すことが、キョーコにはどうしても出来なかった。
それは、蓮も同様で、キョーコが自分の過去を知り、軽蔑した目で蓮を拒絶することを考えると、尊敬する先輩という位置まで失ってしまうことが怖かった。
テレビに一緒に映っていた光とどういう関係なのか今すぐにでも問い詰めたい。
けれど、聞ける立場にない蓮は、キョーコをただ黙って送り届けるしか出来ない。
「あ……!?」
何かに気付いたように隣から、キョーコの驚いた声が聞こえる。
「どうしたの?」
先輩の仮面を貼り付け、蓮は尋ねる。
「ロケの神社…!?撮影の時には気付かなかったですけど、あそこ今日ロケした神社です!…帰り道にあるなんて…」
「そうなんだ…?少し寄ってみる?」
「いいんですか?」
「俺も初詣なんてなかなか行く時間ないし、行ってみたいな」
本音は、仕事とはいえ、男と仲良く参拝したキョーコの記憶を自分に塗り替えたい。
1日だからか、普段からなのか、神社は開放されている。
脇に車を停め、蓮とキョーコは、車から降り立った。
「誰にも見つかる心配ないですけど…暗いですね」
「ごめんね?懐中電灯があれば良かったんだけど、携帯の光で我慢してね」
「大丈夫です!ありがとうござキャアッッ!!」
「危ない!」