『いいよ、REN!そのまま…そう!そう!イイね』
「「………??」」
11月初旬、空いた時間に社長室に来いと命じられた蓮と社は、現在社長室の前にいた。
扉をノックしようとしたが、部屋からボソボソと聞こえる声にその動きを止め、2人で顔を見合わせる。
先客かと思ったが、直前に連絡をいれ、大丈夫だと言われたことを思い出し、2人は部屋に入ることにした。
『よしっ、じゃあ最後に好きな娘思い浮かべて…こらこら無表情になるなよ!』
『好きな娘の魅力に充てられて……煽られて……REN…そんな彼女を口説いてみようか?』
ワインレッドのシャツのボタンを外し、無造作に緩め、着崩したネクタイを左手に絡める。
何枚も何枚もシャッターが切られる。
蓮は、挑発的にカメラを見ながら、キョーコを思い浮かべていた。
ダークムーンの打ち上げパーティーのキョーコが妖艶に笑う。
元から笑顔と礼儀正しさに好感を持たれている彼女。
芸能界という場所で磨かれ日に日に綺麗になり、益々馬の骨を増やしていく。
男がどれだけ危険で狡いか知らない純真無垢な彼女。
彼女が他の男の隣で微笑む前に。
彼女が他の男の身体を知る前に。
彼女が他の男に染まる前に。
『…今すぐ、どうにかして…あげようか……?』
(俺がぐちゃぐちゃにしてしまおうか)
小さく囁く。
妖しい瞳と笑みを浮かべ、蓮はカメラの向こうにいるキョーコに手を伸ばした。
『オ、オッケー…終了ッッ!』
赤面するカメラマンとスタッフ。
『蓮お疲れさん~』
『お疲れさまです』
今まで何回も仕事を一緒にしている、40代のカメラマンが話しかけてきた。
『それにしても…蓮~』ニヤリと笑うカメラマン。
『お前、好きな娘いたんだな』
『……なんの話ですか?』
『モデルは服を魅せるために感情を殺す…漫画とのコラボって聞いて最初どうかって思ったが……、たまにはこういうのも悪くないな』
『お陰で、普段見れないモデルの表情が撮れた』と愉しそうに笑う。
蓮ははっとして、カメラマンの顔を見た。
『最後の言葉…想いが駄々漏れだ』
聞こえていたのかと顔を朱に染める蓮。
『ははっ、いい顔!大丈夫…誰にも言わないよ』
「なっ、何ですか…これ?」
社長室にある大型のテレビモニターに映る映像を見て、蓮はひきつったように顔を歪め、立ち止まった。