「「「キャァ~~~~~~~~ッッ!!!」」」
現在、蓮と倖一の降りた4Fエレベーターホールは、異様な熱気に包まれていた。
玄関ホールに比べたら人は比べようもないほど少ないが、入社式直後のせいか、普段よりエレベーター利用者は多い。
男性陣は、目を丸くし、女性陣は、悲鳴に近い叫び声を合唱して一点を凝視している。
彼等の目の前には・・・
会いたかった人の姿をみつけ、思わず走り寄って抱きつこうとしたキョーコ。
腕の中に飛び込んできた女性を思わず抱き止める蓮。
さっきまで捜していた子に名前を呼ばれ、両手を広げ抱き止める体制をしたまま固まる倖一。
「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」
三者三様に時が止まる。
「倖ちゃん…会いたかった」
突然の出来事に自分の名前を呼ばれていないことなど蓮の耳には入っていない。
ギュッっと蓮の背に、一生懸命両腕を回す小さな体。
軟らかそうな短い茶色の髪が目に入る。
思わず無意識に蓮もキョーコを抱き締め返しそうになり腕を伸ばす。
「蓮!」
一足先に我に返った倖一の声に蓮は自分のしようとしている状態に気付く。
(何しようとしてるんだ俺はっ!)
抱き締める直前、何とか伸ばした両手を肩にかけ、蓮はキョーコをそっと体から離した。
「…あの……君?」
「ふぇ…?」
キョーコは、頭上で聞こえた、聞き慣れない綺麗なテノールの声に、驚いて顔を上げた。
見下ろしていた蓮としっかり目が合う。
「えぇ!?」
(なんで…!!?)
「つっ…つっ…つ…る…がっ…敦賀蓮!…さん!?」
目の前にいるのは、テレビをあまり見ないキョーコでも知っている位に有名な若手実力派俳優であり、LMEの看板俳優。
何で自分は蓮の腕の中にいたのか、自分が今どういう状況に置かれているのか理解できず、ガチリと思考と体が固まり、キョーコは目を白黒させた。
キョーコが漸く、抱きつく相手を間違えたのだと気づいたのは、倖一に体を引かれ、蓮の腕から解放された後だった。