「花のゆめ?」
「はい、少女漫画の雑誌みたいなんですけど…」
「う~ん…知らないなぁ…それがどうかしたのか?」
蓮から、少女漫画雑誌の名前が出たことに驚きつつ、俺は素直に疑問を口にした。
「社長に呼ばれて、その…花のゆめ?ですか…の雑誌に出てくる男性を演じて、メンズグラビアモデルをやれと言われまして…」
「漫画に出てくる色んなキャラクターを演じるってことか?」
「あっいえ、来年のカレンダーを作るために、それぞれの役にモデルが起用されるそうで、俺もその中の1人をやれば良いみたいなんです」
「…結構大掛かりだな~、でも、俺のとこには、そんな話きてないぞ?」
「何でも、社長直々に受けたらしくて」
「社長…直々に?」
「はい………。」
社長が俺や蓮に確認もしないで仕事を受ける…。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ことわっ」「れるわけないでしょう?」
蓮が俺の言葉を即座に遮った。
仕事に厳しい蓮のことだ。どんな役でも、出来ませんなんて言わないだろう…。
でもさっ、でもさぁっ
なぁ蓮…?
俺。俺。
嫌な予感しかしないよぅぅぅーっ!!!
思わず遠くに意識を飛ばしてしまいそうになったが、視界に蓮の想い人の姿を捉えて、辛うじて現世に留まった。
「キョーコちゃ~~~ん!」
俺の声に気付いて、キョーコちゃんは小走りに駆け寄ってきてくれた。
「おはようございます!敦賀さん、社さん」
綺麗な所作で頭を下げ、俺たちに笑顔を向けてくる。
「おはよう最上さん」
「おはようキョーコちゃん」
お兄ちゃん癒されるよ。さっきまでの憂鬱な気分を忘れて、自然と笑顔になる。
うんうん、蓮の顔も嬉しそうだ。
「あっ、そうだ!キョーコちゃんは、花のゆめって雑誌知ってる?」
「花のゆめ…?少女漫画のですか??」
「へぇ最上さん知ってるんだ?」
「はい!私あまり漫画とか読まなかったんですけれど、社長さんにラブミー部のバイブルだ!と薦められて…」
「「バ…バイブル…?」」
「社長さん曰く、花のゆめには、愛と勇気についての教えが描かれているそうですよ?」
愛と勇気?
脳内でどこぞの正義の味方がバイキンにパンチを繰り出している。
いやいや、あれは、少女漫画じゃないし。
いったい、社長は蓮にどんな仕事をさせる気なんだあぁぁぁぁ