玖村まゆみ『完盗オンサイト』 | 映画な日々。読書な日々。

映画な日々。読書な日々。

読書、子育て、コスメ、グルメ情報等を中心に更新しています。

完盗オンサイト/玖村 まゆみ
¥1,575
Amazon.co.jp

報酬は1億円。皇居へ侵入し、徳川家光が愛でたという樹齢550年の名盆栽「三代将軍」を盗み出せ。前代未聞の依頼を受けたフリークライマー水沢浹は、どうする?どうなる?不気味な依頼者、別れた恋人、人格崩壊しつつある第3の男も加わって、空前の犯罪計画は、誰もが予測不能の展開に。最後に浹が繰り出す、掟破りの奇策とは?


第57回江戸川乱歩賞受賞作品。


推理作家への登竜門と言われている江戸川乱歩賞ですが、この作品はミステリーというよりもエンターテインメント作品という感じがしました。


フリークライマーの水沢浹は、恋人でもありパートナーでもあった伊藤葉月と別れて帰国。

そして金も底をつき、浹が行き倒れた場所は寺。

その寺の住職・岩代に助けられた浹は、寺で居候させてもらいながら岩代の紹介で工事現場の仕事に就く。


しかし工事現場でクライミングの練習をしていたところをある人に見つかり、それがきっかけで報酬1億円で皇居内にある樹齢550年の名盆栽「三代将軍」を盗み出すという仕事を依頼される。


フリークライマーの腕は一流だが、現在仕事もお金もなく、別れた恋人が忘れられない水沢浹。

浹を助けた寺の住職・岩代。

岩代と共に生活している、うまく言葉を話せない子供の斑鳩。

プロクライマーでプリンスと呼ばれている、浹の元恋人の伊藤葉月。

岩代と浹が働く工事現場の元請け会社・國生地所の社長、國生環。

環の兄で身動きができないほど超肥満体の國生地所会長、國生肇。

人格が破壊し、狂ってしまっている斑鳩の父親の瀬尾。


人物描写はしっかり描かれていますが、視点が主人公の浹、岩代、葉月、瀬尾、、ところころ変わります。


ちなみにタイトルにある「オンサイト」とは、「自分が一度もトライしたことのないルートを、初見で完登すること。」。


浹はすごくいい奴なんですよね。

子供嫌いで最初は斑鳩のことも嫌がっていたけれども、いつの間にか斑鳩を可愛がるようになり、斑鳩も浹になついていくところなんかはとてもよかったです。


そして自分のことよりも葉月のことを考えて行動するところなんかも、本当いい奴だなぁと。

ただ、逆にいい奴はいい奴なんだろうけど、ここまで別れた恋人に執着してるのはちょっと怖いかも・・・。


人格破壊してしまっている瀬尾については、ぞっとするほどの不気味さを感じさせるぐらい丁寧に描かれていただけに、最後があっさりすぎたのがちょっと残念。


ストーリー展開はわりと面白くてとてもテンポよく進んでいくので、あっという間に読めます。


ただあまりリアリティが感じられず、さらに登場人物の誰にも共感できなかったのでイマイチ乗り切れませんでした。また後半の展開の雑さも気になったかな。


気になったのは、プロローグで「550歳の人質を取るために」と書いてあったこと。

私だったらプロローグに「人質」とは書かないだろな~。


その「人質」のアイデアもいまいちピンとこなくて、せっかくの名盆栽「三代将軍」を盗み出すと言うという面白い軸も、無理矢理の展開になってしまっていた感が否めませんでした。


乱歩賞受賞作品としてはなんだかとても軽いというか薄い作品だったな、という印象です。

登場人物の中には色々な障害を持つ人たちが沢山出てきたりもするのに、なぜか軽い。


決してつまらないわけではないし、サクサク読めるのですが、残念ながら小説としての完成度はあまり高くない感じがしました。


★★☆