角田光代 『なくしたものたちの国』 | 映画な日々。読書な日々。

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なくしたものたちの国/角田 光代
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松尾たいこのイラストと、それをモチーフに描かれた角田光代の連作短編小説。女性の一生を通して、出会いと別れ、生きるよろこびとせつなさを紡いだ、色彩あふれる書き下ろし競作集。


普段読んでいる角田さんの作品とは一味違い、ファンタジーテイストの連作短編集となっています。

でもいつもの作風とは少し違いながらも、角田さんらしさが随所に感じられ、

そして全編を通して、とても優しさ、温かさ、懐かしさを感じられる短編集でした。


松尾たいこさんがまず絵を描き、その絵から角田さんが物語をつくりあげたそうです。


『晴れた日のデートと、ゆきちゃんのこと』

8歳まで、動物や植物、八百屋で売られている野菜等、いろんなものと話ができた成子。

山羊のゆきちゃんの恋とデート。

しかしある日突然、彼らとの会話ができなくなってしまう。


『キスとミケ、それから海のこと』

昔飼っていた猫の生まれ変わりだという純一郎との再会。


『なくした恋と、歩道橋のこと』

超弩級の恋(つまりは不倫なのだが)をして、生き霊になってしまった成子と、

同じように何かがきっかけで生き霊になった仲間たち。


『さようならと、こんにちはのこと』

昔から忘れ物の多かった成子が、電車の中に4歳の娘を置いてきてしまった。

そして遺失物管理庫にいるという娘を迎えにいく。


『なくしたものたちのこと』
昔なくしたカメラを手に、誰もいない街をさまよう成子。

そこには成子がなくしてしまったものたちであふれていた。


成子の子供時代から、大人になるまで。

成子と「なくしたものたち」がファンタジーたっぷりで描かれていきます。


そんな中、「さようならと、こんにちはのこと」はとても切なくて悲しいなくしもののお話。


だけど、とっても大切なものをなくしてしまったけど、大丈夫、悲しいことじゃない。

また会えるから。


なんて素敵なんだろう、と思う。


また「さようならと、こんにちはのこと」「なくしたものたちのこと」で描かれる

遺失物管理庫描き方がすばらしすぎる。

こんな倉庫があったら、どんなに素敵だろう。


昔持っていたのに、捨てたけではないのに、いつの間にかなくなっているたくさんのものたち。

大切にしていたものも、そうでないものも、

「どこ行っちゃったんだろう」というたくさんのものたち。


そして同じように、忘れてしまうたくさんの記憶たち。

あんなに楽しかったのに。あんなに大切だったのに。


私たちは大切なものをなくさないようにしなくちゃ!と思う。

たいせつな気持ちを忘れないようにしないと!と思う。

忘れたくない、なくしたくないと思う。


だけど、年を重ねるに連れて

いろんなものを得る代わりに、いろんなものをなくし、忘れてしまう。


だけど大丈夫。

忘れてしまったって、なくしてしまったって、

大切なものはまたきっと出会える。出会ってしまう。


なくすことは決して悲しいことじゃない。

また出会えるから。


そんな風に思えれば、なくしてしまってもさみしくはないはず。


松尾たいこさんの絵がまたとても素敵でした。


★★★☆