百田尚樹 『ボックス![Box!]』 | 映画な日々。読書な日々。

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ボックス!/百田尚樹
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高校ボクシング部を舞台に、天才的ボクシングセンスの鏑矢、進学コースの秀才・木樽という二人の少年を軸に交錯する友情、闘い、挫折、そして栄光。二人を見守る英語教師・耀子、立ちはだかるライバルたち…様々な経験を経て二人が掴み取ったものは!?『永遠の0』で全国の読者を感涙の渦に巻き込んだ百田尚樹が移ろいやすい少年たちの心の成長を感動的に描き出す傑作青春小説。


めちゃくちゃ面白かったです。

普段文庫しか持ち歩かない私が、585ページもあって分厚い本なのに続きが気になって外出する時も持ち歩いて電車の中でも読んでいたくらい。


高校生のアマチュアボクシングのお話です。


高校の英語教師・高津耀子は、電車の中で喫煙しているマナーの悪い若者達に絡まれたところを、野球帽の少年に助けられる。一人であっという間に6人をやっつけた彼はまるで風のようだった。


翌日の授業中、耀子は特進クラスの生徒の木樽が、昨日の野球帽の少年と一緒にいた少年ではないかと気づく。そして耀子を救ってくれた野球帽の少年は、同じ高校の体育科でボクシング部に所属する鏑矢だったと知る。


天才的な才能を持つ鏑矢は木樽優紀の幼馴染で親友。勉強はできても昔からいじめられっ子だった優紀は、いつも鏑矢に守ってもらい、鏑矢の強さに憧れていた。


そしてある屈辱を受けた優紀は、鏑矢のように強くなりたい、男らしくなりたいと願い、ボクシング部に入部する。勉強はできても見るからに貧弱で運動なんてできそうもない優紀だったが、鏑矢を目指し、彼はコツコツと地道に練習を重ねる。


天才の鏑矢

努力の優紀

そしてボクシングの怖さを誰よりも知っている他校の稲村


高校のアマチュアボクシングを舞台に、この3人の戦いを丁寧に描き出します。


新米の女性教師・耀子と高校に入ってからボクシングを始めた優紀の視点で交互に描かれていくので、ボクシングが全くわからない人でもすんなり入っていけます。二人と一緒に読者もボクシングを少しずつ知っていけるようになっているところが上手い。ボクシングのルールやテクニック、練習の様子など、初心者が疑問に思うことやわからないことを、耀子や優紀が質問して教えてもらうという形式になっていて、とても丁寧にかつわかりやすく描かれているので、ボクシングの試合を見たことがない私ですらまるでボクシングの練習から見守ってたと勘違いしてしまうぐらい。そしてボクシングってこんなに素敵なスポーツだったんだ、と初めて知りました。


ちなみにタイトルの『ボックス』は『ボクシングをしろ』という意味、つまり戦え!という合図なんだそうです。


鏑矢は本当典型的な天才型。多分努力をすることなく、なんでも誰よりも器用に上手くできてしまうタイプ。そしてボクシングでは誰にも負けないという自信。多分見ている側が気持ちよくなるぐらい、軽く爽やかな本当「風」のような動きをするんだということがよくわかります。だけどそんな鏑矢は本当喧嘩っ早いし、幼い、というかガキ。でも鏑矢のその子供みたいなガキ臭い行動もなんだか可愛らしく思えてしまうんですよね。


そんな鏑矢に憧れる優紀は鏑矢とは正反対。性格もとても真面目だし、才能はない代わりに、ともかく努力、努力。ボクシングを始めてからの彼の努力はすさまじいです。特進クラスを維持する為に勉強は怠らず、さらに部活動以外に朝も夜も家での自主練を欠かさない。その自主練もびっくりするぐらいハード。そしてクソ真面目な優紀は監督の教えを守り、教えられたこと、やれと言われたことだけをただひたすら繰り返します。


基礎を作る練習ってすごく大事だけど、実際かなりつまらないもの。だから少しできるようになったら、他のこともやりたくなってしまうのが人間だと思います。だからその基礎の練習だけをひたすら続けることができる優紀は本当にすごいと思うし、そういうことを続けられるのもまた才能だと思うんですよね。


ボクシングははじめてから1年間は試合に出られないというルールになっているんだそうです。だから優紀について描かれてるのはほとんどが練習シーンばかりで、彼のデビュー戦は420ページから。でもそれがかえって上手いと思いました。優紀についてはこの努力の過程が大事だったわけだから。そして貧弱だった優紀は自らの努力で凄まじく成長するのです。優紀が少しずつだけどいろんなことが出来るようになって、どんどん強くなっていく姿はすごくうれしかったですね。努力することは決して無駄じゃないって教えてくれたように思います。


一方鏑矢は毎回すばらしい試合を展開する。けれども、努力をしない天才はなかなか頂点に登りつめることができない。負けを負けと認めない鏑矢はなんだか本当手に負えない子供みたいな感じでした。その鏑矢を変えたのは優紀とマネージャーだった丸野。あんなに練習嫌いだった鏑矢の変化が私はなんだかとってもうれしかったし、天才が努力をしたらどうなるのか、本当楽しみで仕方なかったです。そして思ったのは、鏑矢はいつでも自分のことより人のこと、という子だったんだな、と。小さい頃から優紀を守っていた鏑矢は、ここでも優紀の為に頑張るんです。自分が勝つための努力ではなく、優紀を勝たせるための努力。ちょっと感動しちゃいました。


そんな二人に立ちはだかるのは王者・稲村。

稲村への挑み方も全く正反対の優紀と鏑矢。だけどこの3人の戦いはすばらしかったし、映像で見たら本当感激してしまうんじゃないかと思うほどでした。


優紀と鏑矢を最後どう収拾させるんだろうと思ったのですが、その後の二人も二人らしくてなんだかほっとしたし、読み終わった後、とても爽快な気分になりました。また不覚にも本を読みながら泣きそうになってしまうシーンも結構あったんですよね。


久しぶりに本当面白かったーと思えた本でした。


★★★★☆