荻原浩 『愛しの座敷わらし』 | 映画な日々。読書な日々。

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愛しの座敷わらし/荻原 浩
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生まれてすぐに家族になるわけじゃない。一緒にいるから、家族になるのだ。東京から田舎に引っ越した一家が、座敷わらしとの出会いを機に家族の絆を取り戻してゆく、ささやかな希望と再生の物語。


47歳課長職の晃一は、東京から地方支店へ異動になった。それはつまり主流からはずれたことを意味していた。晃一はこれからは出世など気にせず、家族の時間を大切に過ごそうと決め、街外れの古い大きな一軒家を勝手に契約してしまう。


妻の史子は近くにスーパーもない、大きいけれどもあまりにも古い家に不満を持ち大反対。

前の学校でイジメに遭っていた長女の梓美は、転校を告げると大喜びされてしまう。

小さい頃に喘息を患い、母親に極度に心配されている弟の智也は、心配されすぎることに不満を抱いていた。

晃一の母・澄代は夫を亡くしてから、少しボケはじめていた。


東京ではバラバラだった高橋家は、晃一の契約してしまったその古い家へ引っ越しすることになる。土間があり、虫は当たり前、クモの巣もすぐにできてしまうような古~い家。スーパーは自転車で片道20分以上走らないとない。そんな田舎街での生活が始まる。そして高橋家が引っ越した家には古くから座敷わらしがいた。


なかなか面白かったです。


一見何も問題はなさそうに見えた高橋家。でも東京で暮らしていた時は、家族は1つにはなっていなかった。梓美が携帯メールばかりしていることを注意する親。でも梓美が学校の友達にイジメられていて、メールだって嫌がらせのメールしかきていなかったことにも全く気づいていなかったし、そもそも反抗期のような態度をとる梓美と父親の会話はほとんどなかった。史子は智也の喘息がまたぶり返すのではないかと心配しすぎていて、智也は思うように遊ばせなかったり、史子と澄代の仲も全然良くはなかった。


そんな家族が田舎に引っ越してきて、そしてその家に住む座敷わらしと少しずつ関わることによって徐々に深まっていく絆。「座敷わらし」が高橋家に福をもたらします。


家族それぞれの視点で描かれていくので、それぞれが初めて座敷わらしに気づいた時の反応の差だったり、それぞれが思い悩んでいることがよくわかるので、家族全員の気持ちに移入できます。


座敷わらしが福をもたらすと書きましたが、座敷わらしは何をするでもありません。ただいるだけ。悪さをするわけでも、助けになるようなことをするわけでもない。だいたい4~5歳の子供ですからね。でも座敷わらしの存在がこの家に福をもたらしたことは間違いありません。


今まで上手くいっていなかったことがうまくいくようになり、わかりあえていなかった家族がわかりあい、家族の距離が縮まっていきます。


一人座敷わらしの存在に気づけていなかったお父さん。家族との時間を大切にするためにこの家に引っ越してきたはずなのに、残業や休日出勤、上司との付き合いで結局家を空けっぱなし。そんな晃一が家族がまとまりつつあるのを見て疎外感を抱くところなんかはちょっとリアルでしたね。家にいない分、余計にそういうのって感じやすいんだろうなぁ。家族が仲良くなっているのがうれしい反面、自分だけ蚊帳の外にいるようで寂しくなってしまう気持ちはよくわかりますね。最後まで晃一だけ座敷わらしが見えなかったのは可哀想でしたけど。


でも基本的に座敷わらしは見えない人の方が多いいのに、ファミレス店員や引越しやさんはすごい確率で見えるのにはびっくりでした。


私は東京でしか暮らしたことがないので、絶対私だったらこんなところ引っ越すの嫌だなぁなんて思って読んでいたのですが、こういう田舎に、こういう家に引っ越したからこそ得られるものってあるのかもしれないな、と思いました。東京にいたら隣の家の人が苗植えにきたり、調味料の貸し借りなんてしないですもんね。


座敷わらしはとてもかわいかったです。とくに「ふわぁ」っていうのが。実際見つけちゃったら怖いって思っちゃいそうな気がしますけど、こんなかわいかったらそうは思わないのかな?表紙にちょこんと座ってる座敷わらしなんて超かわいいですもんね。しかも座敷わらしっていたずら好きっていうイメージだったんですが、この座敷わらし、いたずらも全然しないし本当いい子だわ。家族6人仲良く暮らしてもらいたいです。


★★★☆