石田衣良 『親指の恋人』 | 映画な日々。読書な日々。

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親指の恋人/石田 衣良
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許されぬ愛にもがく二人…。

究極の恋愛小説大学三年生の江崎澄雄は、携帯メールの出会い系サイトでメールのやり取りをかさねたジュリアと恋に落ちる。しかし、二人の経済的な環境は、極端なまでに違っていた。ある日、ジュリアの父親が脳出血で倒れてしまう。


恋愛小説ですが、立場の違う二人の恋愛から現代の格差社会を浮き彫りにしている作品です。


裕福な家庭に生まれ、お金に不自由したことは一度もない、六本木ヒルズのレジデンス棟に住む澄雄。彼はいい大学に行き、女性からもモテて何不自由ない暮らしをしながらも、母親が死んで以来、何事にも希望が見出せずに死んだように生きている。


そんな澄雄が自分を知らない人と話をしてみたいというちょっとした興味でアクセスした出会い系サイトで、ジュリアという女性と知り合う。彼女は「世界を終わりにしたい」という澄雄の言葉を理解してくれ、メールのやりとりが始まる。


澄雄は馬鹿らしいと思いつつも、ジュリアとのメールのやりとりを続け、そしていつの間にか今まで誰にも話したことのない母親の自殺についても話していた。


ジュリアも母親を亡くしていて、今は長距離運転手をしている父と二人暮らし。借金まみれでどうしようもない父との生活の為、ジュリアは昼間はパン工場で契約社員として働き、夜は出会い系のサクラのバイト。ジュリアは澄雄が想像できないぐらいどん底の世界で暮らす女の子だった。二人は初めてオフラインで会い、そして互いに好きになるが、全く違う環境で暮らす二人には多くの試練が待ち受けていた。


最初に新聞記事で結末がわかってしまう設定はいかがなものか。楽しみが一つ減ってしまったような感じで残念でした。


あまりにもわかりやすすぎるぐらいの設定。澄雄は超金持ちの息子、ジュリアはその日の生活もままらないほどの貧乏ですべての不幸を呼び込んでしまうような女の子。澄雄とジュリアの生活レベルは天と地ほどの差があります。そんな二人が出会い系の携帯サイトで知り合います。まぁそんなことでもなかったら間違いなく知り合うことのなかった二人なんでしょうね。


私は澄雄みたいに三角形のてっぺんにいるわけでも、ジュリアみたいに底辺にいるわけでもない、至って平凡で真ん中らへんにいる人間なので、澄雄の気持ちもジュリアの気持ちもきちんと理解してあげられないのかもしれません。実際に自分がその立場にたってみないとわからないことってきっとあると思いますから。


それでも二人はどんなにお互いの置かれた環境が違っていても、二人の愛を信じて貫こうとします。あまりにも二人がすぐにお互いに運命の人と思えてしまうぐらい相性ぴったりすぎなのが都合よすぎの設定のようにも思いましたが、そういうことも本当にあるかもしれないしね。


確かにここまでレベルが違うと、一緒に生きていくには抱える問題が多いのかもしれない。でも二人の問題というよりも、ジュリアにふりかかる不幸が大きすぎるのが全ての原因だったようにも思います。


「おまえの幸運よりも、その女の不幸の方が強いんだ」

足して二で割って平均的になるわけではない、どん底にいる方の負の力の方が圧倒的に強いというのは悲しい現実。ともかくジュリアが少しでも幸せになろうとすると、必ずそれを妨害するものがでてきてしまう。不幸がすべてジュリアに降りかかってくる。


澄雄がもう少し大人だったらなんとかしてあげられたのかもしれませんが、澄雄はまだ親の脛をかじっているような状態。ジュリアに援助したくても父親の力を借りるしかない。しかし父親はジュリアのことは認めてくれない。澄雄はジュリアを思い、ジュリアは澄雄を思う、その結果、二人が出した決断があれだったのは悲しいというか、安易過ぎるというか。他にもっと違う選択肢があったんじゃないかなぁ。


でも私は実感ないですが、実際にここまで格差があるとしたら、それは国がなんとかしないといけないのかもしれませんね。ジュリアのようなどん底生活はあまりにも可愛そうすぎです。


★★☆