佐々木譲 『夜にその名を呼べば』 | 映画な日々。読書な日々。

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夜にその名を呼べば

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書評 /ミステリ・サスペンス

1986年10月、ベルリン。欧亜交易現地駐在員の神埼は何者かに襲撃された。親会社の共産圏への不正輸出が発覚、証拠湮滅を図る上層部の指令で命を狙われたのだ。殺人の濡れ衣まで着せられた神崎は壁を超えて東側へと亡命、そのまま消息を絶つ―それから5年、事件の関係者に謎の手紙が届けられ、神崎を追う公安警察もその情報を掴む。全員が雨の小樽へと招き寄せられたとき、ついに凄絶な復習劇の幕が切って落とされた!


本が好き! より献本していただきました。


新装版の文庫が今年の5月に発売されたわけなのですが、単行本としては1992年に出版されたものなのでもう16年も前なんですね。でも古さを感じることはなくてとても面白かったです。


舞台は1986年、ベルリン。ソ連がまだ存在し、そしてドイツがまだ東西に分かれていてベルリンの壁があった時代。この時代、共産主義諸国の軍事能力の強化を防止するために共産主義諸国への軍事技術・戦略物資の輸出規制(ココム)が行われていた。


神崎が働いていた欧亜交易は、横浜製作所がココム違反をかいくぐる為に作ったダミー会社で、横浜製作所は欧亜交易を経由して共産主義国へ納入するという取引を行っていた。そのココム違反が摘発されそうになった時、神崎は嵌められ、命を狙われ、殺人の罪を着せられてしまう。神崎は自分の命を守る為にある人の協力を経て東へと亡命する。


それから5年後。既にベルリンの壁は崩壊していた。そして神崎から母親、横浜製作所の重森、殺された西田の妻、ルポライターの川口ら多数の関係者宛に小樽港に来るようにという手紙が送られてくる。そして指定されたその日、様々な人たちが様々な思いを抱えて小樽港へと集まった。


会社に落としいれられ、抹殺されそうになる神埼。神崎からしたら本当やりきれないですよ。最初は何がなんだかわからなかったけれど、ベルリンで自分が仕事で関わった人たちが殺され、さらに自分も襲撃され、殺人の容疑をかけられる。最初その大きな陰謀に気づかなかった神崎は、何もやっていないのだから無実を証明できるはずで、疑いを晴らそうとします。


忠誠を尽くしてきたはずの会社の裏切り。それを確信してしまった時の神崎の気持ちを思うと、もうかわいそうでかわいそうで。ある程度汚いことをする為に作ったダミー会社で働いていた以上、それぐらいの覚悟は必要だったのでしょうか。汚いことをしている会社に忠誠を尽くすべきではないんですね。


そんな神崎に救いの手を差し伸べてくれたオスカー。最初にコイツが出てきた時は正直ウザイと思ったし、お金をあげちゃう神崎もどうかと思ったんですが、人を邪険にするものじゃないな、と思いましたね。オスカーがいなかったら神崎はとっくに殺されていたでしょうから。でも最初はオスカーの存在がとてもうれしかったし、こういうい人もいるんだとうれしく思いましたが、オスカーに助けてもらったことが果たして良かったのか、悪かったのか、正直最後まで読んだ後はよくわからなくなりました。


そうして会社の裏切りにあってしまった神崎が東へ亡命してから5年。ベルリンの壁はすでに崩壊。そしてドイツから送られてきた手紙、「小樽港にきてください。」


これは意味深でしたね~。警察関係者や横浜製作所の重森、寒河江、西田の娘・早紀らと同じように、神崎はどうやって小樽港にくるんだろう?どうやって母親と会おうとするんだろう?など様々な疑問が浮かび、ともかく先が知りたくてすごい勢いで読んでしまいました。だって裏表紙には「凄絶な復習劇の幕が切って落とされた!」なんて書いてあったんですよ。神崎はどうやって復讐するのかがもう気になって気になって。


だけど読めど読めどなかなか神崎は現われず、だから復讐もしないままに結構なページが進んでしまってあれ?という感じでした。そして神崎がなかなか現われないわりには、怪しい人物が捕まったり、神崎がらみだと思われる事件が起きたり。


小樽で神崎を捕まえようとする警察たちには正直腹がたって仕方ありませんでした。神崎を裏切って陥れた重森たちにももちろん腹はたっていたんですが、警察の方がひどい。神崎の妻に対する仕打ちは何?しかもそれを面白がってやっていたことが本当許せなかったですよ。と思ったところで、そういえば佐々木譲って警察小説得意としてる人だったことを思い出しました。「警官の血」は実は貸し出し期間中に読み終わらずに返却してしまったので未読なんですが・・・。


真相は私が全く予想していないものでした。そしてまさに小樽で「復讐」は行われました。そこには凄絶な復讐計画があったんです。ああ、そう来たか、と思いましたね。本当最初から最後までやるせなかったですが、それでも唯一早紀が神崎を信じてくれたことが救いでした。


★★★★