重松清 『カシオペアの丘で』 | 映画な日々。読書な日々。

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カシオペアの丘で(上)/重松 清
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カシオペアの丘で(下)/重松 清
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肺の腫瘍は、やはり悪性だった―。40歳を目前にして人生の「終わり」を突きつけられたその日、俊介はテレビ画面に、いまは遊園地になったふるさとの丘を見つける。封印していた記憶が突然甦る。僕は何かに導かれているのだろうか…。


久しぶりの重松清さんの作品。上下巻の長編です。


かつて炭鉱で栄えた北海道の真ん中に位置する小都市・北都。その街で一番見晴らしの良い名もない丘を「カシオペアの丘」と名づけ、その満点の星空の下で未来を語りあった幼馴染、シュン、トシ、ユウちゃん、ミッチョ。小学5年生の時、ある事故がきっかけでシュンが札幌に転校して以来、4人で会うことはなかった。


それから月日が流れ、4人は大人になり、それぞれの道を歩んでいた。

トシは北都の街の遊園地・カシオペアの丘の園長になり、教師となったミッチョと共に暮らしていた。シュンは故郷を捨て、東京でサラリーマンとなり、ユウちゃんは東京のテレビ製作会社でディレクターとして働いていた。


そんな4人を引き合わせたのはある悲しい少女殺人事件。その事件をきっかけにかつての幼馴染は北都の街で再会する。しかし、40歳を間近に控えたその時、シュンはガンに侵され、余命わずかとなっていた。


テーマはゆるすこと、ゆるされること。


炭鉱の時代に起きた北都の街の悲劇。その炭鉱の街を仕切っていた倉田千太郎。炭鉱事故の犠牲者を見殺しにした祖父・倉田千太郎を許すことができず、倉田を捨てたシュン。もう二度と故郷には帰らない、幼馴染とも会えないと思っていたシュンが、人生の最後に故郷に戻ります。


この本の中には、

「ゆるされないとわかっているけど、ゆるされたい人」と

「ゆるしたいのに、ゆるせなくて、自分を責め続けている人」

が出てきます。


果たしてどちらが辛いのだろうか?ずっとゆるさないで生きていく人生は淋しいんだとトシは言う。私も「ゆるしたいのに、ゆるせなくて、自分を責め続けている人」の方がきっと辛いんじゃないかな、と思います。そう思うと、シュンは「ゆるされないとわかってるけど、ゆるされたい人」でもあり、「ゆるしたいのに、ゆるせなくて、自分を責め続けている人」でもあったから、きっととても辛かったはず。そんなシュンは人生の最後に、故郷の北都に戻ってきて、過去と向き合い、幼馴染に許しを請おうとし、ずっと恨んできた祖父を理解しようとします。そして最後に妻と息子に何が残せるかを一生懸命見出そうとするのです。


トシ、シュン、ユウちゃん、ミッチョ。4人には楽しいことばかりではなかったし、過去にいろいろあったけれども、それでもこの4人のような関係はやっぱりうらやましいな、と思います。そして物語は、その4人に加え、シュンの妻・恵理、息子・哲生、少女殺人事件の被害者の父親・川原さん、罪の意識から脱することのできないミウを交え、それぞれの過去と交差しながら進んでいきます。

そしてシュンの「死」を目前にし、「生きる」ことを感じるのです。


「誰もが何らかの負い目を持って、許されたり、許されなかったりの繰り返し。」それが「生きること」

最後に許すのはきっと自分自身なんだろうな、と思いました。


それからミウの台詞で印象的だったのがこれ。

「ゆるしたことって、覚えてないでしょ。ゆるさなかったことは、やっぱり忘れないじゃないですか。だから、ひとをゆるすってことは、忘れるってことなんだと思いますよ。」


忘れっぽい人は優しい人なんだそうです。でもそうかもしれないな。忘れっぽい人って全然根に持たなそうですよね。忘れるって、実はけっこういいことだったりするのかもしれないです。


40歳でこの世を去ったシュン、シュンはとても幸せだったんじゃないかと思います。死を目前にして、あれだけの人が自分の為に集まってくれる。自分の命があとわずかだと知ることはとても辛いことかもしれない、けれども後悔のないように、やり残したことのないように、すべてを終えてからこの世を去れるというのは、突然死んでしまうよりも救いがあるように思います。


それから15章でユウちゃんが語る場面がとても好きです。ユウちゃんは、この物語の中では、一番第三者的な立場で、だからこそこういう見方ができるんだよな、と思いました。一見、何も考えていなそうにみえるけれど、実は誰よりも気配りができる人。ユウちゃん、本当いい奴なんですよ。


幼馴染、夫婦、親子、故郷、命・・・

いろんな要素が詰め込まれています。そして正直結構重いと感じてしまうところもあります。でもとてもすばらしいお話でした。このお話を読み終えるまでにいろんな気持ちを味わうことができました。そして重松清さんのおだやかで優しい文章がとても心地よかったです。


ここからは余談ですが、私、ずっとメリーゴーランドだと思ってましたが、メリーゴーラウンドなんですね。言われてみればそうですよね、merry-go-round ですもんね。ちなみにメリーゴーラウンドは、「しばしばメリーゴーランドとも表記されるが誤り。英語では「carousel (carrousel)」と呼ばれることが多い。」だそうです。


東京での思い出として、としまえんのメリーゴーランド・エルドラドが出てきます。としまえんのホームページを見ると、エルドラドは「カルーセル・エルドラド」が正式名称のようです。そしてこのエルドラド、なんと現存する世界最古のメリーゴーラウンドなんだそうです!としまえん、地元なのに知らなかったです。子供の頃は木馬の会に入っていて、しょっちゅうとしまえん行ってました。エルドラドも何度も乗りましたよ。大人になってからは、大学生の時にプールに行ったぐらいで、全然行ってませんけどね。でもとしまえんのメリーゴーラウンドがそんな価値のあるものだったなんて、初めて知りました。


★★★★