荻原浩 『千年樹』 | 映画な日々。読書な日々。

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千年樹/荻原 浩
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木はすべてを見ていた。ある町に、千年の時を生き続ける一本のくすの巨樹があった。千年という長い時間を生き続ける一本の巨樹の生と、その脇で繰り返される人間達の生と死のドラマが、時代を超えて交錯する。


ある町にある一本の巨大なくすの木。千年もの時を行き続けているという千年樹の周りで時代を超えて起こるさまざまな出来事を綴った連作短編集。


全部で8つの短編が収められていますが、その1つ1つの短編の中で過去と現代の話が並行して描かれ、微妙にリンクしながら物語が進みます。変わらずあるのは一本の大きなくすの木だけ。


くすの木の誕生は冒頭の短編「萌芽」で描かれています。しょっぱなから結構えぐい、痛々しいお話です。「萌芽」は、くすの木がその地に根を張ることになった悲しい、はるか昔の物語と、いじめを苦に自殺しようとした中学生雅也の物語。


太平洋戦争で空襲から逃げる誠次の宝物の瓶詰めに纏わる話と、雅也達の幼稚園時代、先生の加奈子がくすの木の下に子どもたちとタイムカプセルを埋める話、「瓶詰めの約束」


昭和11年、心中しようと好きな相手を待つ14歳で身売りされ女郎となったきよ、遠距離恋愛で久しぶりに会う博人を待つ啓子、時を越え、くすの木の下で好きな男を待つ女の姿を描いた「梢の呼ぶ声」


江戸時代、理不尽な理由で切腹を命ぜられた下級武士の忠之助と、校長や保護者そして生徒達への不満が募り、その怒りをくすの木にぶつける中学校の教師の義明、くすの木の前で刀を手にする「蝉鳴くや」


殺めてしまった女の亡骸と共に洞窟で過ごし死んでゆく山賊のハチと、ヤクザの堀井と子分ケンジが、落とし前をつけるために岸本を生き埋めにしようとくすの木の下を掘り続ける「夜鳴き鳥」


女ばかりを生み続け、生活の為に鎮守の社の池に「子どもを流す」ことを命じられたトミの話と、道に迷い偶然くすの木の隣にあるさびれた資料館に足を運ぶことになった四人家族の話「郭公の巣」


孫の真樹が見つけた、昭和の初めに生まれ、今息絶えようとしている祖母の若き日の恋文「バァバの石段」


市役所の「あれこれ相談課」で働いていた41歳になった雅也。そして落枝が原因でついにくすの木の伐採が決まる。そんなくすの木の最期を見守る「落枝」


時代は変わっても人間の姿はあまり変わらない、千年の時を生きたくすの木が見続けてきた人間の姿。人間の”悪”というか、人間が過ちを犯す姿が多く描かれているように思いました。


くすの木がその地に生まれた時に命を落とした小さな子供は、後の話にも度々出てきます。その小さな子どもとその両親を死に追いやった「浅子」一族の子孫が、現代でも権力のある地位についているところも憎憎しい。


過去の話は悲しい出来事ばかりで本当に切ないです。昔はそんな時代だったんだ、と。でもそれが現代になったからといって平和になっているわけではない。現代は現代なりにやるせないような出来事が沢山おきている。時代は変わっても人の行動はあまり変わっていないと思わされる、そして同時に人の願いも変わらない。


そんな中でオチが用意されていた「梢の呼ぶ声」はちょっと変わっていましたね。一番「バァバの石段」。結婚相手は親が勝手に決めて、会ったこともない人と結婚するような時代の恋文、逢引き。おあちゃんの恋物語のホロっとさせられました。


雅也と同級生達の幼稚園時代から大人になってまでの関係性もうまく描いてあり、構成がいいです。短編集にも関わらず、読み応えのある一冊でした。


★★★☆