新堂冬樹 『底なし沼』 | 映画な日々。読書な日々。

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底なし沼/新堂 冬樹
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一匹狼の闇金王・蔵王のシノギは、サラ金業者から債権を買い、完済した借金をさらに払わせる「二重取り」。エグイ取立に追い込まれ、足掻くほど泥沼に沈んでゆく債務者たち。商売敵は絶望のどん底に突き落とし、背後の広域暴力団すら歯向かえば容赦なく踏み潰す。最後に笑うのは誰なのか。借金で借金を返す這い上がれない無間地獄。真の闇金をえぐる極悪金融小説。


結構面白かったです。


街金融の経営者だった蔵王の父親は債務者に優しかった。しかしその優しさが仇となり、債務者に裏切られ不良債権が溜まり、自殺した。思いやりや情を持っていたばかりに命を絶たなければならなくなってしまった父親に教えられた、「債務者とは、究極の自己中心的で薄汚く卑怯な生き物である」ということ。昔、父親を尊敬し、一人でも多くの人間を救おうと心に誓った少年は、父と同じ職に就いた。一人でも多くの人間を救うためではなく、一人でも多くの人間を地獄へ叩き落す為に。


闇金業界を牛耳る黒幕・市之瀬に拾われた蔵王は、金貸しのノウハウを叩き込まれ、闇金業界でメキメキと頭角を現した。そんな蔵王のシノギは「二重取り」。二重取りとは、サラ金業者から完済した債権の証書を買い取り、その借用書を元に元債務者から金をゆすり取ること。


そんな蔵王に歯向かってきた結婚相談所を経営しているという内山田。蔵王は、内山田に地獄を見せてやると心に誓う。内山田の本名は日野。日野はかつて部下の借金を背負わされ、借金地獄に陥っていた。結局資産家の妻の父親から援助を受けることになったのだが、それと同時に妻も仕事もなくした。一度は地獄を味わったものの、結婚相談所を立ち上げ生還した日野。そんな日野の過去を調べ上げた蔵王は、日野の元債権者から借用書を買い取り、日野から金を巻き上げることを画策する。


まず、「二重取り」というものに驚きました。だって完済した借金をまた払わされるんですよ。でも確かに金融業者には借用書が残ったままで、完済したという証拠がなければこの理不尽な理屈も成り立ってしまう。そして本来払う必要のないはずのお金なのに、その取り立て方は半端じゃありません。ない借金をネタにこんな強引なすさまじい取立てをしているなんて、これが現実にあるとしたら本当に恐ろしいです。それでも蔵王はカタギ。暴力をふるい、すさまじい取立てをしててもカタギ。いったいカタギとヤクザの境界線はどこなんだろう?


そして結婚相談所のからくりも描かれていてなかなか興味深かったです。結婚相談所なんてヤミ金と比べるような商売だとは思っていませんでしたが、結構似た商売だったなんて衝撃です。会員からどうやってお金を騙し取るか、金、金、金でした。そして闇金も結婚相談所もバックには暴力団が絡んでいる。


金の亡者である二人、蔵王と日野の戦いは金を取る、取られるだけではありません。二人ともプライドが高すぎるぐらい高いので折れるということを知らない。どちらかが完全に勝つまで戦いは続く。そしてそんな二人の戦いの後半は二人のバックに控えるヤクザの市之瀬が絡んできて、他の組を巻き込んでのヤクザバトルへと発展します。最初の方の取立てのシーンも暴力的で残酷でしたが、ヤクザが絡んできてからの残虐シーンの描写はすさまじい。想像しきれないぐらいでした。


ただ、日野と市之瀬のつながりがいまいちよくわからなかったんですよね。そして最初は虚勢を張っていた日野は蔵王の相手としてはちょっと弱かったかな、と思います。最後の方は本当しょぼかったですからねぇ。物語の展開は結構意外性に富んでいて、どんどんページが進みましたが、ラストのオチがイマイチだったかなぁ。

騙し騙され、利用し利用され、信じられるのは自分とお金だけ。なんとも淋しい世界ですね。


それから物語の前半に何度も文中に「底なし沼」という言葉が出てくるのが気になってしまいました。あまりタイトルがそのまま文中に出てくる小説って好きじゃないんですよ。1、2回ならまだいいですが、この作品はタイトルを多用しすぎていたように思います。


改めて知った闇金融の怖さ。元債務者達が借用書を返してもらっていないので、ある意味債務者のミスといえばそれまでですが、債務者は完済したこと、やっと闇金と手が切れるということに満足してしまって、借用書を返却してもらうということは意識の中にない人が多いんだろうな、と思いました。そもそも何かにサインをするときも内容をきちんと読まない人が多かったりしますもんね。


闇金融に手を出してしまったらどういう悲劇が待っているのか、ということを知ることができるので読んで損はないと思いますが、暴力的な描写がかなり多いので、その辺が苦手な人はやめた方がいいです。私的には黒い太陽 と同様に、またひとつ自分の知らない裏社会が知れてなかなか興味深かったです。


★★★