鏑木蓮 『東京ダモイ』 | 映画な日々。読書な日々。

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東京ダモイ/鏑木 蓮
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男は帰還を果たし、全てを知った。極限の凍土・シベリア捕虜収容所で起きた中尉斬首事件。60年間の沈黙を自らに強いた男が突如、姿を消した―。第52回江戸川乱歩賞受賞作。


1947年11月、ソ連イルクーツク州タイシェト地区・第五十三俘虜収容所。極寒のシベリアに拘留され、帰郷(ダモイ)だけを信じて強制労働に耐える日本兵。寒波(マロース)が来た日、一人の日本人将校が首を切り落とされて殺害された。

それから58年後、平成17年11月。自費出版専門の出版社・薫風堂に勤める槙野は、76歳の男性・高津から、戦後自分が捕虜となって体験したことを残したいと、シベリア抑留の経験を纏めた句集の出版を依頼される。しかし出版に向けて作業が進む中、高津が失踪してしまう。高津の部屋に残されたのは、舞鶴港でロシア人女性の死体が発見されたという新聞記事。そして彼女の身元保証人だという男性もまた行方不明となっていた。


58年前に起きたシベリアでの日本人将校の斬首事件と、現代で起きたロシア人女性の殺人事件。この二つの事件を、高津が残した句集を手がかりに解き明かしていきます。

全体的にはよくまとまっていている感じでしたが、俳句を元に謎解きが進められるところは難解でした。まぁ単に私が俳句が読めないというだけなんですが。

”シベリア拘留”という言葉こそ知っていても、その実情はほとんど知らないに等しかったので、シベリア拘留の過酷な実態は読んで衝撃でした。プロローグや高津の句集による俘虜収容所(ラーゲリ)での惨状の描写にはすごい迫力を感じます。極限状態での行動、心理の描写も見事でした。それに比べると現代での描写、事件の謎解き部分は弱かったように思います。事件を解決する手がかりが高津の句集だけ、というのがちょっと弱い感じなんですよね。また、主人公たちが高津の句集を元に謎解きをするという設定は面白かったと思うのですが、警察も主人公達と同じ動きをしているので、どうしてももたもたした感じを受けてしまいます。主人公と警察が別の視点から謎を解いて行く設定にしていればもっと面白く歯切れもよかったんじゃないかな、と思います。

決め手となった鑑識が見つけた破片の設定はよかったですが、トリックには意外性は特になく、正直ミステリーとして読むと物足りない感じでした。また主人公もなんだかぱっとしなくて、何かと妹に電話しまくっているのが気になりました。

と、いろいろ気になるところはありましたが、それでもラーゲリの描写がすばらしく良いので読み応えはあり、なかなか面白かったと思います。

★★★