荻原浩 『僕たちの戦争』 | 映画な日々。読書な日々。

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荻原 浩
僕たちの戦争

2001年9月12日世界貿易センタービルに旅客機が突っ込んだ翌朝も尾島健太(19)は、テレビの臨時ニュースや新聞には目もくれず、一人サーフィンに出かけた。バイトをクビになりガールフレンドのミナミとも喧嘩中で会えないからだ。しかし、大波に呑まれた健太が目を覚ますと、そこは1944年だった!1944年9月12日霞ヶ浦飛行場から飛び立った石庭吾一(19)は、「海の若鷲」に憧れる飛行術練習生だ。しかし、操縦を誤って海に墜落してしまう。蘇生した吾一が目覚めたのは、なんと2001年だった…。根拠なしポジティブのフリーターとバリバリの特攻隊員が入れ替わり―どうなる、ニッポン!?愛と青春のタイムスリップ・ウォー。


おもしろかったです。


今時の若者、尾島健太は1944年の第二次世界大戦中の日本へ、そして戦時中の航空隊にいた石庭吾一が現代の日本へと互いにタイムスリップ。この二人、なぜか容姿がそっくりだった為、周りの人々は入れ替わってしまったことに気づかず、健太は吾一として、吾一は健太として生活しなくてはいけなくなります。


入れ替わった後の二人の混乱振りの描写が実に見事でした。

まさか自分がタイムスリップしてしまったなんてことを考えもしない二人。

1944年にタイムスリップしてしまった健太は、町並みが古臭いのを最初は昔の日本を再現したテーマパークだと思ったり、どっきりだと思ったり。そしてあまり勉強をしていなかった健太は、もちろん歴史にも詳しくない。老婆が「赤紙」や「支那事変」と言っても意味がわからず、かみ合わない会話をし、仕舞いには老婆がボケているのだと勘違い。


一方現代にタイムスリップし病院に運ばれていた吾一は、摩訶不思議な光景に驚きます。見たこともない大きな一枚ガラス、金髪や栗毛で露出度の高い服を着ている女性。窓から見えるのは「M」(マクドナルド)や「Daiei」、「イングランドフェア開催中」の下げ幕。”ここは日本ではない、捕虜になったのだ”と勘違いする吾一。


それでも次第に自分の置かれた状況を把握し始めた二人は、とりあえず元に戻る方法を探りながらもその時代に適応していきます。


戦時下の理不尽な暴力を受けながらも、意外とあっけらかんと要領よく過ごす健太。健太はどうせ日本は負けるのに、お国の為に命を捨てようとする若者達、特攻隊に志願し、いつ死んでもいいと思っているこの時代の人たちの気持ちが理解できない。この健太の緊迫感のなさが逆に結構リアルです。

健太が人間魚雷「回天」に乗ることになったあたりは、「回天」がテーマになっている横山秀夫の「出口のない海」を思い出しました。出口のない海ほど重く書かれてはいませんが、それでも考えさせられるところが沢山ありました。


一方逆にお国の為、自分のことは二の次でいつ死んでも良いと生きてきた吾一が、こんな世の中になる為に自分達は戦ってきたのか、と唖然とするのもこれまた納得な姿なんですよね。

吾一の台詞は印象的でした。


多すぎる物質と欲と音と光の世界。誰もが自分の姿を見ろ、自分の声を聞けとわめき散らしている。謙虚も羞恥も規範も安息もない。これが、自分たちが命を捨てて守ろうとしている国の五十年後の姿なのか?


戦時中の人たちの視線で見ると、今の私たちの世の中ってやっぱりいい加減なのかな。当たり前に食料があって、住む家があって、死の恐怖を感じずに生活している私たち。今当たり前にあるこの生活をもっと感謝しなくてはいけないのかな、と考えさせられました。


いい加減に生きていた健太がどんどん成長していく姿はいいです。

また時代を超えて揺れ動く健太と吾一の気持ちがすごくよく描かれています。本当上手い。

でもラストはちょっとずるいかな。どうやって終わるんだろう?とずーっと気にしながら読んだのに。綺麗な終わり方でしたけどね。


戦争のことが私たちの視線で、あまり重くなく描かれているのでとても読みやすいです。それでも読み終わった後にはいろいろ考えさせられてしまう。そのあたりがとても上手いな、と思いました。お勧めです。


★★★★