- 砂の本 (集英社文庫)/ボルヘス
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私が初めて『砂の本』を読んだのは1995年のころです。そのときは、ボルヘスの表現の面白さ、語りの上手さは実感しましたが、この本の内容がいまいちわけがわかりませんでした。しかし、いまではこの『砂の本』がなんとなく解る気がする。
この『砂の本』の中には、数々の神話や、聖書、無数の古典、歴史的な名著のテクストやその影響が随所に見られます。
ボルヘスはそれらのテクストを自在に操り、ボルヘスにしか出来ない個性的な作品に語りおろしている。(ボルヘスは中途失明者)
古い時代から存在する実在のテクスト群が、あたかも、初めからボルヘスひとりのために用意してあったかに思えるように、ボルヘスの語りのなかに無理なく自然に共存している。
登山家が岩を騙して岩山を登攀するごとく、数々の古典を騙して自分の作品の内部に納めている。
ボルヘスに騙された古典たちは幸せに違いない。