2014.8 三陸海岸北上 いまをみる 5日目 その2 | あおいとあさぎの旅行記 blue × blue journey

あおいとあさぎの旅行記 blue × blue journey

カメラの蒼生≪あおい≫と一緒にまわった、ひとりとひとつの旅のきろく。

青森県の東、三沢航空科学館。

尽きることのない人類の青空への夢が生まれ、繋がれていった場所。

*その1~ブルーインパルス~はこちら


航空科学館の入口には、夢を追い空の先を見つめる二人の像が。






夢のりんご。











赤い飛行機と、二人の男性の像。

それぞれの手にはりんごが。

彼らのお話は、のちほど…。


さあ、ここが入口。

ここから大空への人類の旅がスタートします。


三沢航空科学館の外観は、どこか海外の美術館のような洗練された出で立ち。




骨格。







骨組みがとても美しく、すっきりと晴れた日であれば

その空の青を体いっぱいに取り込んで、澄み渡りそうな。


エントランスホールでチケットを買って、最初の展示室へ。

格納庫のような広い部屋に、大きな大きな飛行機のレプリカ。

その色つや、鮮やかさに思わず目を釘付けにされる。

彼女が大空を舞う姿を想像すれば、それは「紅一点」と言わんばかりに

鮮烈に人々の記憶に残るだろう。




sky orange.







機体側面に入った色っぽい字体の「ミス・ビードル」がチャームポイント。

それが彼女の名前。

二人の男とりんごと夢を乗せ、太平洋を一度も休むことなく横断した名機。


1931年、アメリカ人パイロットのクライド・パングボーンヒュー・ハーンドン

三沢市の淋代(さびしろ)海岸にいた。

地元の人から、名物の紅玉りんごをおみやげにと手渡され、ミス・ビードル号に乗り込む。

41時間のフライト。足下に地面はなく、ひたすら北太平洋の荒波。

再び地に足がついたときには、そこはアメリカだった。

ミス・ビードルは、世界初の太平洋無着陸横断に成功した飛行機です。


さきほど科学館の入口に建っていた像も、まさに出発直前の彼らを表したものでした。

空を飛びたいという、純粋な夢。一点の曇りもなく、単純で、聡明な。

滑走路のように、真っ直ぐにその先を目指した人々の姿は、憧れの対象です。


最初の部屋からテンションが上がって、自分も宙にふわふわ浮いているような

感覚になりながら、さらに巨大な空間の航空ゾーンへと足を踏み入れる。

そこには、下にも上にも、たくさんの飛行機たちが飾ってあって、

まさに航空サーカス。




はじまりの機。







入ってすぐのところにあったのは、最初の一歩を踏み出したライトフライヤー号の模型です。

1903年、人類初の有人飛行に成功したライト兄弟が発明した飛行機。


ライト兄弟はもともと自転車屋さんだったんですよね、確か。

その傍ら、机上の計算と実験を繰り返し、ついにこの機体を開発した。

空に行くことへの貪欲な願望と、飽くなき探究心。

その純正100%な気持ちだけで、ひとつのことに没頭できたら、

これほど楽しいことはないだろうな。


もう少し奥へ進むと、日本製の機体レプリカが待っています。




ジャパンメイド。







右の赤い翼の機体は航研機と呼ばれ、当時の東京帝国大学(今の東大)が造った実験機です。

1938年、10,651kmの周回飛行距離を達成し、当時世界記録になりました。(翌年、イタリアの飛行機に抜かれてしまいましたが…。)


左のは、日本初の旅客機YS-11

世界に飛び立つ人々を支え、送り届けてきた機体です。


この飛行機、機内にも入ることができます。

客席やコクピットも見学することができ、ちょっとしたフライトアテンダントの気分。

特にやはり、操縦席のかっこよさたるや。






Take Off.











この、所狭しと並ぶ計器、そして操縦桿。

空を読み、奔るために必要な装置。

視界一面が青に染まる瞬間を見てみたい。


さて、三沢航空科学館にはさらに奥の部屋があります。

そこは本来なら、格納庫として機能しているスペース。

訪れるまで全く知らなかったのですが、ここで特別展示が行われているらしい。

そのひとつが、「旧日本陸軍一式双発高等練習機」の展示。


思わず「そんなことがあるのか」と耳を疑ってしまうような話ですが、

約70年前に、青森と秋田の県境にある十和田湖に沈んだ飛行機が

2012年に引き揚げに成功し、ここの科学館で一般公開が始まったものです。




70年間の沈黙。







70年も、水の底に沈んでいたとは思えないほど

綺麗に機体のフォルムが残っていて。

機首や胴体のあちこちに、ヒビや亀裂が入って金属の鋭さが露出してはいるけれど、

錆もあまりなく、機体側面と主翼にしっかりと赤い日の丸が今も残っていた。

鮮やかに。


この練習機、通称「双高練」はその性能の高さから傑作と呼ばれていて、

戦時中千機以上も生産された飛行機だったそうですが、

国内に残されていたものは一機もなく、幻のものとなっていたらしい。

それが、70年の時を経て、今のこの時代に姿を現したという…

タイムカプセルのような機体です。


科学館のスタッフさんの説明によれば、

当時、この練習機には4名の少年兵が訓練のために乗っていたそうですが

エンジンのトラブルで湖面に不時着し、そのまま湖に沈んでしまった。

しかし、これほど完璧に近い形で機体が見つかったということは、

まだ16~17歳ほどの若いパイロットの腕が、相当良かったんだろうとのこと。

長い眠りの時から目覚めて、今の自分たちに彼らが遺してくれたもの。


国に引き上げられてしまうと自由に近づいて見ることができなくなっちゃうから、

今のうちにしっかり見ておいて!とスタッフさん。

さらに、東京からせっかく来たんだから機体の中に入っていいよとまで

言ってくださり…もうこれは、チャンスを掴まんとばかりにお言葉に甘えさせていただいた。


ジュラルミンの尖りで自分を傷つけないように気を付けながら、

胴体のなかに頭をすべり込ませてみる。




水底の光。







ところどころ剥げ、割れ、錆び、穴が開いた機体。

それでも骨格はしっかりとしていて、自分で立てるということを証明しているかのような。

水底に沈んでいくときの、少年兵たちの眼差しの先にあったものが、

少しだけ感じられる気がして、美しくもあり、怖くもあり。

外界から射し込む光が、今は物言わぬ金属の塊をただ冷たく照らす。

周りの時は動いているが、この中だけは止まっている。


言葉で上手く言えないけど、胸に少し刺さるような、

心を包まれるような、そんな心地がしました。




航空遺産。







尾翼のほうから見ても、機体の形が綺麗にわかる。

レプリカではない、本物の機体が持つオーラというか気配は、

圧縮した時間を解放するかのように波動となって伝わってくる。

ピンと背筋が伸びる。

これを今の時代に残してくれたことには、必ず意味がある。そんな気がする。


次回、いよいよ三陸旅の締めくくり。

もう一つの展示と、科学の夢。

*その3~空の先へ~はこちら