2013.10 瀬戸内トリエンナーレ2013 3日目 豊島その2 | あおいとあさぎの旅行記 blue × blue journey

あおいとあさぎの旅行記 blue × blue journey

カメラの蒼生≪あおい≫と一緒にまわった、ひとりとひとつの旅のきろく。

瀬戸内海に浮かぶ島・豊島の秋はとても深く、

時に宇宙の声を聴く。

銀河に漂う地球の、その縮図がここにある。

*豊島その1~青への想い~はこちら


島の代表的存在である、森の中のスペース「豊島美術館」。

その感想は、「とにかく素晴らしい」「行かないと分からない」というものばかり。

ですが、本当にその通り、人間の特徴である「言葉」をあえて無くしてしまう

ほどの、シンプルなことわり。




宇宙船。







受付のある入口が、左側の白くて小さな建物。

あるひとつの作品が、右側の一見すると無機質な円盤のなかで展開されています。


そう、豊島美術館には、作品はたったひとつしかありません。

このひとつのためにすべてが造られ、このひとつこそが世界のすべて。

それだけ聞くと、「え、どういうこと?」と思ってしまいますが、

そんな感情はあっという間に吹き飛びますのでご安心を。


チケットを受け取ったあとは、まず館内を外周する道をぐるりと回ります。

森の中を通り、木々の隙間から海を見て。





水のつぶ。






雨降りやまず、美術館の透明なビニール傘にはいくつもの細かな粒。

それすら、この森のざわめきの中では美しく見える。

10分くらいゆっくりと歩いて、やがて円盤形の建物の入口に到着。

傘を閉じ、靴を脱いで、宇宙船のなかへ。


◆『母型』 内藤礼


中は写真撮影禁止だったので、できるだけ言葉で書いてみます。

(とはいえ、言葉を失うと書いた通り、どこまで伝えられるか…!)


円盤形は白く、冷やりとし、スルスルとした触感のセラミックのようなもので出来ていて、

角がひとつもない。

ガウディのような流線型というか、曲線で構成されていて、

巨大な卵の中にいるようでもあり。


その卵の両端に、空に向かってまるい穴が開いています。

穴に切り取られた風景から、森と空模様が覗けます。

薄い布でできたリボンが垂れ下がっていて、入ってくる風の向きが分かる。


そして、床にはところどころ、地下から湧いてくるように

小さな小さな水のかたまりが、まるく研がれた川の小石のように、

ふと浮き出してくる。

セラミックの上で摩擦など感じないかのような、純粋な楕円球。


これが、床につけられたほんの少しの傾斜によって

徐々に徐々に、振動し、楕円の先端が次の道を侵食していく。

やがてそれらは勢いづき、するりと川のように流れて、

穴の下に溜まる雨の大海へと注ぐ。


これは天気が雨だからこそ見られる景色かもしれません。

雨の日が素晴らしい、という感想の方もいて、

この旅で初めて雨に感謝した。


水たまりは海、すべての水滴の最終目的地であり、到達点。

それは、地球の水の営みそのものを表しているようであり、

あるいはそこから生まれた生命の循環の構図なのかもしれません。

宇宙-地球-海、とつながれるこの一連の流れの中で

自分は地球外生命体になって、この星の行く先を見ているかのような感覚。

それと同時に、自分も小さな水滴の一粒そのものでもあり。

進んでいく道に、自分の未来を懸命に見ようとしたり。


豊島美術館の中は、宇宙空間のようで、未来都市の一部屋のようで。

無重力のなかにふわふわと漂うような。

水滴の行く末を見守るだけで、一日中ずっとここにいられると思う。


…やっぱり言葉だけだと難しい。笑

ぜひ、直接体感してみることをお勧めします。



さて、美術館を出たあとは、豊島の一番大きな集落、唐櫃岡へ。

島アートならでは、ここもとても島民の方々の生活が感じられる場所です。






島の台所。











◆『島キッチン』 安部良


大きく広げられた、黒い両翼。

そこに集う人々を優しく包み込むような曲線。


地元でとれた食材で、美味しいお料理を楽しめることで大人気の島キッチン。

行ったときは雨のせいもあり激混みという感じではなかったのですが、

時間がなくて立ち寄れず…。

一度ここのランチを食べてみたい!

屋根の下には笑顔がたくさん咲いていました。


唐櫃の集落にも、島ならではの昔から続く風景が残っています。

黒い瓦屋根と木でできた家々が連なる。







青い瓦。










瑠璃色の瓦屋根の家がありました。

塗ったのかな?深海の色で、雨に濡れて反射する姿が

とても凛々しく美しい。

少し中心地を外れれば、とても静かで長閑な島の休日が待っている。


さらに、集落への入口であるバス停のほうまで来てみました。

秋の花がたくさん咲いていて、揺れていて。




飛ばそう。







雨で少し霞む花たちは、秋に咲くからこそ綺麗。


バス停の目の前には、シンボリックなアート作品が

空への祈りのように立っていて。




輪。







◆『空の粒子/唐櫃』 青木野枝


輪の中から雨が降り注ぐ。

幾重にも重ねられた円環は、何を空へ還し、何を貰い受けるのか。

何か普段は目に見えないものを、あえて具現化しているような感じ。


向こうに見える黄色い花畑は、セイタカアワダチソウ。

この季節には一斉に黄色くて小さい房をつけ、春のナノハナと対になるような。

その先は海、というのが島のいいところ。


唐櫃集落を再び横切り、逆側の外れのほうへ行くと、

とある一つの古民家の中で繰り広げられる懐かしい思い出があります。

夏の豪雨や、秋の台風。

外から聞こえる、モンスターの叫びのような雨風。

何かがしきりに侵入したがるように、ガタガタと窓枠を揺らす。

鍵をかけて、障子を閉め、それには決して耳を貸さないで。

時折、轟く雷鳴が障子紙を透かして、こちらを見通そうとする。

子供は家族の姿を探す。

畳の上で体育座り、膝を抱えて自分を守るように、じっと耐える。

過ぎ去るのを、じっと待つ。




夕闇に嵐。







◆『ストーム・ハウス』 ジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラー


ちゃぶ台に扇風機、ブラウン管のテレビが置かれたとある家族の居間。

畳の上に腰を下ろすと、やがて嵐が来る。

家の中にいると、すべてが少し遠い世界のように聞こえるあの感覚が

リアルによみがえってきます。



唐櫃集落をぐるりと回り、午後もいい時間になってきて

豊島上陸の土地、家浦港に帰ってきました。

ようやっと雨が止み、自転車の風を切るたまらない心地よさが戻ってきて、

スピード出しすぎに注意しつつ、一気に島を一周!

やっぱり豊島は自転車巡りがいいと思います。


家浦にも作品があります。

こちらも普通の民家のなかにドンと現れる、ちょっと変わった家。







赤い煙突。










◆『豊島横尾館』 横尾忠則/永山祐子


横尾忠則氏の作品が置いてある美術館。

赤いガラス張りの、見た目も奇妙で少し恐怖を覚えるような外観ですが、

中もすごいです。独特の世界。

原色の目を引くような美しさと、そこに潜む狂気、グロテスクさ。

第一印象で若干引くも、気付くと凝視してしまうような怪しい魅力が満載。


もうひとつは、方向感覚が狂ってしまうような家。




立体と平面の境。







◆『あなたが愛するものは、あなたを泣かせもする(日本フランチャイズバージョン)』 トビアス・レーベルガー


部屋の壁、柱、置かれた椅子、テーブル。

それらの作り出す、物体同士の境界線を

床や壁に描かれた模様としての直線が、消してしまう。

これは面白い発想だなぁ。

どこに何があって何がないのか、ちょっとよく分からなくなります。

電子的な世界にも似ているのかも。


ちなみに2階はドットです。







橙の椅子。










こんなにサイバーな空間なのに、椅子に座って窓から眺める景色は

港に漁船、そして瀬戸内の海。

落ち着くのか落ち着かないのか、それもよく分からない。


豊島から直島へ帰る高速船は、すごく混み合うのですが

フェリーと違って定員が明確に決まっているため、遅く行くと乗れないことも…!

ということで、レンタサイクルを返し、早めに港で並びます。


高速船は定刻通り出航。

飛行機の時間にも間に合いそうです。




陸を離れて。







最後に少しだけ、空には晴れ間が。

やっと出てきたか太陽め。



瀬戸内トリエンナーレ2013、3日間だけで弾丸のように回りました。

脳の中に詰め込まれた数々の感性、違うアーティストの違う想いにクラクラしながら

帰路に付く。

どの作品にもその時抱いた自分自身の感情が閉じ込められています。

アートとはそういうもの。


物を書いたり、絵を描いたり、何かを作ったりするのが好きな人にはあると思うのですが、

時々無性に、よく理解できないもの・誰かのものすごいエネルギーや想いが

込められているものに触れたくなる。

そうすると自分の内側にある感覚が外に出たいと騒ぎ出す。

3年後、また違う島を巡って

その、手がムズムズと動き出したくなる感覚を再び取り戻したいと思います。