安倍首相のスピーチが、海外で頗る評判がいい | イイケン先生かく語りき

安倍首相のスピーチが、海外で頗る評判がいい

 

谷口智彦56)」という人、ご存知だろうか?

1次安倍内閣では、外務副報道官を務め、今年2月、安倍氏に請われて内閣審議官に就任した。もとは経済誌「日経ビジネス」の記者だ。

英語に堪能で、ロンドン特派員時代には「言葉を磨く」ためにと、BBCの番組に定期出演していた。

 

安倍首相の海外でのスピーチが、頗(すこぶ)る評判がいい。

米シンクタンクやニューヨーク証券取引所(NYSE)では、ユーモアや「対抗勢力」に向けた皮肉を交えながら自説を主張した。 2020年の東京オリンピック開催を勝ち取った背景には、国際オリンピック委員会(IOC)総会での首相の力強いメッセージがあったと海外メディアが報じたほど、最近の首相のプレゼン力は評価が高い。

安倍カラー取り入れた演説の陰にスピーチライターあり…そう、この人、安倍首相の「名言」生み出すスピーチライターとして、安倍外交を陰で支えている人物である。

 

そのいくつかを思い出してみた。まずはつい最近、925日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)での名言である。

Buy my Abenomics.(アベノミクスは『買い』です)」安倍首相がこう口にすると、聴衆からは笑いが起きた。2010年の映画「ウォール・ストリート」で、マイケル・ダグラス演じる大物投資家が言い放つ「Buy my book.」というせりふをもじったとみられる。

 

首相は来賓として、NYSEの取引終了の儀式にも臨んだ。木槌をたたく後ろには日の丸が掲げられ、そこにはJAPAN IS BACK」「INVEST IN JAPANと書かれていた。

演説でも「『Japan is back』だということをお話しするために、ここに来ました」と語りかけ、日本の復活が「間違いなく世界経済回復の大きなけん引役になる」とアピールした。

 

米シンクタンク、ハドソン研究所主催の講演では日本の集団的自衛権の行使に理解を求めた。強調したのは、日本が世界の平和と安定に積極的に貢献していく姿勢だ。

中国や韓国は、首相の外交や防衛政策に「日本の右傾化だ」としばしば批判している。これに対して、日本の防衛費は11年ぶりに増額したが、「防衛費は0.8%上がったに過ぎません」

一方で我々には、軍事支出が少なくとも日本の2倍という隣国があるのですと指摘。そのうえで「私を右翼の軍国主義者と呼びたいのなら、どうぞ」と突っぱねた。

国名こそ伏せたが、ことあるごとに「口撃」してくる「隣国」を皮肉った形だ。

日頃は歴史認識問題などで手厳しい海外メディアも、あの演説は絶賛するしかなかった。2020年の五輪開催地は当初、東京の劣勢が伝えられていた。だが、ブエノスアイレスでの安倍晋三首相の招致演説を、英BBCは「安倍首相が立役者だった」と高く評価。

ロイター通信は「カリスマ的嘆願」と世界に伝えた。

 

We are ready to work withyou(みなさんと働く準備が、私たちにはできています)」

心配の種だった東京電力福島第一原発の汚染水問題も、不安の払拭に手を打った。

まず演説で、状況がコントロールされていることを説明。その後の質疑では、「汚染水の影響は原発の港湾内の0.3平方キロの範囲内で完全にブロックされている」「健康問題は全く問題ない」と、実情とは若干違いがあるが、力強く念を押した。

「国内メディアは東京落選を見込んで『首相が原発事故の不安を払拭できなかった』とこき下ろす準備をしていたが、首相のスピーチは見事にそれを跳ね返した。

 

自己主張を控え、相手をあまり刺激しない…いかにも日本的配慮だといえる。

しかしそれは、同じ文化と価値観を共有する日本人同士、日本人の美学として我々の誇りだったに違いない。文化も価値観も、宗教も環境も全く違う外交においては、この美学は理解できないだろう。沈黙は金、以心伝心なる曖昧模糊とした日本的美学は、Yes or Noを明言する海外文化には通じないものである。

 

国際舞台で堂々とスピーチを披露する首相、それを陰で支える谷口氏。

彼の言葉を最後にご紹介する。

「おごらず、威張らず、しかし卑屈にも、偏狭にもならないで、経験を与えるにして寛容、学ぶにして謙虚な一員となるよう、日本人と、日本をもう一度元気にする」(講演)

 

「日本人として言うべきことはきちんと言わなければならないし、そのためには自分で発信することを躊躇していては何も始まらない」というのが彼の持論である。

 

自由や民主主義を共有する国と連携する「価値観外交」を掲げたものだと思う。

こうした「理念発信型」の演説を書いたのが、谷口氏と言われる。