エゴン・シーレ@池田祐司 | 俺はShattered

俺はShattered

50歳を過ぎて、「この調子なら100歳まで」と思っていたら、とんでもない苦境が待っていた。そこをくじけずに、生き延びようとする哀れで滑稽で笑止千万な人生の「後半部分」を再構成する決定的で虚無的なアメブロ。

音楽にしても絵画にしても、あらゆる芸術には
基軸に「エロチシズム」がなければならない。
そういう意味でエゴン・シーレの作品は溢れ出る
エロチシズムが作品の中核にあり、どうしても
通過しなければならない位置にある。
それにしてもわずか28歳で
夭折したオーストリアの天才画家は一体
何を考えていたのだろう。震えるような濃い輪郭の
描線はまるで絵画のジェフ・ベックだ。
フォーカスはたえず下半身にあって、
ねじれた身体は頽廃した情欲に
身悶えしている。どうにも我慢出来ない欲望に
倫理を超えた深くて熱い避けがたい創作意欲が
躊躇する事なく従っている様子が手に取るように
わかるのだ。そもそもは小学生の時に祖母が
お土産に買ってきた「ゴッホの絵本」が
きっかけになっている。中学生になって、
同級生の可愛い女の子に「好きな画家は誰?」
と聞かれて、とっさに「ゴッホ」と答えたのが
いけないのだ。よくも知らないのにいいふりを
しようと「ゴッホ」などと答えたものだから、
それからしばらく図書局員である事をいいことに
「ゴッホ研究」に熱中したのだった。
そうしてある程度知識を獲得してもその娘は
その後、何も聞いてこないので、そのままに
放置された。こちらから「君はゴッホの絵はどう
思うか?」などと聞けずに煩悶するのだった。
そして高校生になったら、担任の教師の大場清太郎
が「君は趣味は何ですか?」と聞くので、
何も考えず「絵画鑑賞です」と答えると、
「そうですか。どんな画家が好きですか?」と
重ねて聞いてきたので、思わず「ビンセント・
バン・ゴッホです」などと答えていた。
正確に言うと好きとか嫌いなのではなく、
ある程度知っているのはゴッホだけだった。
それでも「セザンヌも好きです」と余計な
事を大場に言っていた記憶がある。大場清太郎は
「僕はゴッホもセザンヌもよくわからないなあ」と
インテリゲンチャにありがちな「知らない振り」をしていた。
そういうどうでもいい理由で、僕はゴッホが
好きなのだという定義付けをされてしまったのだが、
他に仕方がなかった。それで高校生になっても
図書局員になって、本の整理をしながら、
ゴッホの研究をしていると、先輩の図書局員が
「エゴン・シーレっていいよ」と
つぶやくように言った。それで、図書館の
中の「エゴン・シーレ」を探したり、
本屋に行って、エゴン・シーレを探した。
思春期の少年でも「退廃的なエロチシズム」が
感じられ、この事は母親には話せないな、
と覚悟したのだった。それからしばらく
「えごんしーれ」ばかりを考えた。
それにしても頽廃感あふれる猥褻な絵画である。
多分開いた四肢の間の開かれた陰部は、
ただ描かれていただけではない何かを
思い起こさせた。それは分泌された体液で
書かれたような痙攣された描線で感じ取れる。
本当は淫微な絵画として公開されてはいけない
作品だったのかもしれない。日本の浮世絵に
通底している。体躯のねじ曲がった描写は、
手ぬぐいをしぼったような風にも見える。
ただそれが美術品として世界評価されるようになると、
次第に閉鎖的な淫微世界はどこかに隠匿され、
私的なエゴン・シーレはどこかに消えていった。
俺はShattered-egonschiele


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