友人Hさんの話 | 続・我が逃走

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不完全密室殺人/JONNY/パイプカツトマミヰズでベースギターを担当する舟橋孝裕のブログです。

バンドを幾つかやっているといきおい「このバンドでどこそこに行った翌週に別のバンドで同じ地方に行く」みたいな事もままあって、そんな時は内心「まるで忙しい人みたいだ」とニヤついている。東京に2週連続で行った時(一週目が不完全密室殺人、2週目がJONNYだったかな)に2週連続で友人に会っていて「これじゃあ地元の友達よりよく会ってるよ!」なんて笑いあったものだけれども、遠征先で現地の友人と会うのは楽しく、また長距離移動で無感動になった精神状態(僕でさえこうなのだから、運転を担当する各メンバーは強靭な精神力と肉体を有している点で、ただそれだけでも尊敬に値する!)をリセットするカンフル剤になり得る。小難しい言い方をしないと、「嬉しいなあ」って事だね。


僕がJONNYでベースを弾くようになって初めて大阪へ遠征した時だったと思うが、JONNYが大阪に行く度にライブ会場に足を運んで下さっているHさんとお喋りする機会を得た。どうやら僕の素性を知っている様子だったし、その少し前に名古屋 新栄CLUB ROCK'N'ROLLで行われたブッキングマネージャー本多さん生誕祭にも大阪から駆けつけていたらしい。JONNYを昔から知っているHさんが僕のベースに違和感を感じなかったばかりか、褒めてくれた事を嬉しく思うと同時に、サポート参加している身として安心したのを憶えている。

翌日の神戸、出演者が酩酊、喧嘩騒ぎが起こった結果一時間おしとなったライブ会場にもHさんは、いた。

クッキーを貰ったし、前夜より親しくお喋り出来た。

それ以来、Hさんとは親しくしている。

何が凄いって関西在住のHさんと、大阪と名古屋それぞれで会った回数が今やほぼ同じくらいなのではないか、という事だ。大阪に遠征しに行った際に会う、これはわかる。有難い話。

で、名古屋でライブをする日。ライブ会場にHさんがいる。「来ちゃったよ」とはにかむHさんの肩を叩きながら僕は「まじかよ」と賞賛を送る。この人、名古屋くらいだったら十分に射程距離なのだ。関西在住のHさんにとって、名古屋まで日帰りでライブを観に来るのは大事ではないのかもしれない。

僕みたいにバンドの遠征でしか遠方に出歩かない人間としては想像も出来ない労力と時間、そしてお金がかかっている行為だ。Hさんは今や僕の中で全国区の人間である。

先日の神田夫妻結婚パーティーにも関西からやって来たHさん。新幹線を乗り逃してホームでがっくりと「orz」になったHさん。有難う。友人として感謝しています。


しかしHさんに限った話ではなく、そういう方は結構いらっしゃるのだ。知る限りでも大阪に通うのが億劫になったあまり関西に移住した程関西に通っていた方もいらっしゃるし、夕方まできっちり働いて新幹線で東京に向かい、トリで演奏するバンドを観に行った方もいる。本当に好きなバンドなら青春18切符を駆使してどこまでも観に行く方もいらっしゃる。

そういう方々の前では本当に僕は頭が上がらない。楽しさやライブハウスに渦巻く狂騒に我を失って失礼な態度をとってしまった事はあるだろうし、正直平常時には当たり前のように感じる感覚を忘れがちな時っていうのはあるのだけれど。それでも、だ。

仮に彼ら/彼女達が僕の参加するバンドを観に駆けつけて下さったわけでなくとも、そういう遠征をし得る情熱をその胸に抱いてらっしゃる方々に対して、僕はチケットを売ってライブを敢行する身として畏敬の念を感じるのである。彼ら/彼女達は膨大な時間と膨大な距離をこえて、物凄い情熱を抱いてバンドを観に行くのだ。

不完全~とザ・フロイトで大阪―東京ツアーを行った際に前述のHさんとKさんというこれまた神出鬼没な方とお話していたのだけども、彼ら/彼女達は下手なバンドマンより長距離移動しているし、下手なバンドマンより音楽に対する情熱がほとばしっている。確実に僕よりライブハウスに足を運んで、確実に僕より色々なバンド、色々な瞬間を目の当たりにしている。僕がスタジオ代を捻出するためにシコシコ労働している間に彼ら/彼女達はライブハウスに足を運び、そして楽しんでいる。

音楽が演奏者の生活、精神性に根ざすものなればこの僕の鬱屈、劣等感とても音楽に表出し得るわけで、根底的には僕は無益に時間を過ごしているわけではないのかもしれない。


しかしそれでも僕はそういうお客さん達、我々売れないバンドマンの音楽を欲して、求めて、楽しみにライブハウスに足を運ぶ方々に対してこういった感情を抱くのは、謙虚でもなければへりくだった事でもないと思う次第である。