Another fantasy - 107 - | Another やまっつぁん小説

Another やまっつぁん小説

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 頭上で悪魔たちの驚くような叫び声が聞こえた。
 バサバサと盛大な羽音をたてて、光輝く羽は僕らをもみくちゃにする。


 集中が途切れてしまい、僕の手のひらにあった魔力はかき消え、精霊の身体が宙に浮いた。
 そして翼の中にもまれて消えてしまう。
 僕は手を宙に伸ばし、開いた手を閉じたけれど、翼がつぶれて輝く粒に変わっただけだった。


 そして羽たちは最終的に僕らの周りを渦のように取り囲み、ぐるぐると回り始める。
 空を見上げると、船内で見たときとは違って雲が消え、大きな星が見えた。
 青く輝く丸いその星は3番目の月だ。
 黄金の壁に包まれた先に見えるその星はとても幻想的だった。


 羽音に阻まれてほかの音は聞こえない。
 ここにいるのは僕とクイットだけだった。
 モンスターの姿もない。


 僕は無意識のうちに片手をあげた。
 さっきキルアを呼びだしたときのことを思い出していたからだ。
 あのときは僕が手を伸ばし、魔力を溜めることで、キルアを呼びだした。
 今回もそうじゃないだろうか。


 僕は伸ばした手の先に魔力を集める。
 クイットがそんな僕を見た。
 僕は自分の手を見つめる。


 だんだんと手には白い光が宿り、それに吸い寄せられるようにして翼がより集まる。
 僕とクイットを取り囲んでいた光の壁が徐々に崩れ、僕の手の上の光はどんどんと大きさを増していった。
 羽音が消え、かわりにだんだんと周囲の喧騒が聞こえ始める。


 どうやら光の外では戦闘が再開しているようだった。
 水棲モンスターが攻撃を再会したのだ。


 そして、僕らの頭上にはいつの間にかおびただしい数の悪魔たちが飛んでいた。
 そう、まだ悪魔たちは吐き出され続けていたのだ。
 やつらは冒険者たちに倒されるでもなく空にたまっていく。
 こちらが少しでも隙を見せたら一斉に飛びかかってくるつもりだろう。


 僕はその様子を想像して集中力が途切れかけたが、それでも、手の先に魔力を注ぐ。
 そして、キルアが現れたときのように、一通り集まり光の塊と化した翼は人の形をとった。
 どこからか歓声が上がる。


 そしてついにバリアが姿を現した。
 クイットが口元を押さえるのが見える。
 そうだ、バリアとクイットの間にはちょっとした因縁があった。
 しかし今はそんなことを言っている場合ではない。


 目をつむり羽を広げた状態で宙に静止したバリアは、すっと音もなく片手を宙へ伸ばした。
 ちょうどさっきまでの僕と同じようなポーズだ。


 そして彼女はぎゅっと手を握り、いきなり目を開いた。
 彼女の握り拳から、波が起こる。
 まばゆい光を放つそれはあっと言う間に空へと広がり、悪魔たちの目を灼いた。


「うわ、神様だ!」
 下でそんな声が上がる。
 見るとさっきのイタチのような顔をした人が僕らを見上げていた。


 バリアはそんな人を見てにっこりとほほえみ、宙に浮かんだまま、口を開いた。
「私がきたからにはもうご安心なさい。私はこの悪魔どもを片づけます。あなた達は船の上の魔物を倒すのを優先なさい」
 普段とかけ離れた優しげな声音でゆっくりと彼女が言う。
 そこで、下にいた人たちの志気はぐっと上がった。


「おっし! 神様が味方に付いてくれたんならすぐに勝てるぜ!」
「さあ早く船の上のモンスターをどうにかしよう!」
「悪魔がいなくなりゃこっちの勝ちだ!」
 なんて声が各所から上がり、すぐさま人々の雄叫びをあげたり、朗々と呪文を唱える声が聞こえ始めた。


 バリアの力おそるべし。
 見た目からして普通じゃないもんなぁ、宙に浮いてるしさ。
 みんなすっかり神様だと思いこんだみたいだ。
 まぁ、中には僕らを胡散臭そうに見る人もいたけれど。


 そんな人々を見て「それじゃ、片しますかな」とバリアがぼそっと言った。
 周囲がうるさくてはっきりとは聞こえなかったけど、そのときだけはいつもの調子。
 僕はなんだか鳥肌がたち、腕をさすった。