零斗は抱えた黒の脈を測る。
指先から伝わる振動に、まだ生きていると確認してから安堵のため息を吐いた。
もうしばらく走れば、森から抜けられる。
零斗はそう直感していた。
「大丈夫?」
伊家猫が自分を仰ぎ見る。
その瞳が、突然凍った。
振り向いたとき、零斗に覆い被さらんと腕を広げる、巨大な影の波があった。
「な…っ!?」
これも、何者かの能力の仕業か。
そう考えた零斗の横から、突然目を潰さんばかりの閃光がはじけた。
光の線は躊躇なく闇を突きぬけ、その物体を粉々に砕く。
白い光の中で振り向けば、手を翳す1つの人影。
どうやらその手から光線が発せられているようだ。
光に目が慣れた時、視界に映ったのはオリーブのズボンに白のTシャツというラフな服装。
左の瞳にありえない模様が入った、茶髪の青年。
光が消え、闇に目が慣れるにつれて人物の姿が月に照らされた。
「よ、陽先生!」
「よ、生徒会長。校長からの連絡を受けて来たんだよ。」
腰を下ろせ、と陽は手で指示をする。
零斗は黒を下ろすと、とりあえず声をかけて何とか意識を覚醒させようとする。
その間、陽はズボンのポケットから携帯を取り出していた。
登録してある番号を押し、耳に当てる。
「…もしもし。こちらは岩陰 陽。速瀬 早也の妹、及び学生の生存を確認。生徒会の書記は重傷、何名かが傷を負っている。直ちに救援部隊に召集を掛けろ。」
むせ返るような森の匂いが、僅かに血の匂いを帯びていた。