弟2部 相続編
第1章 相続総論
相続とは、自然人の財産法上の地位または権利義務をその者の死後に法律および死亡者の最終意思の効果として、特定の者に承継させることをいいます。
その方法は2つあり、死亡者の最終意思としての遺言によって処理される方法(遺言相続)と遺言がない場合に民法が定めたルールに従って処理される方法(法定相続)があります。
以下の事例を素材として、遺言がない場合に民法が定めたルールに従って処理される方法(法定相続)を中心に説明していきます。
【事例】
創業から60年の社歴のあるA社は、従業員40名ほどの工作機械メーカーです。現在2代目である経営者甲(60歳)は、体調を最近崩したことから、事業承継を考え始め、その長男である丙(30歳)を後継者として想定しました。
長男である丙は、大手企業に勤めていましたが、この話を聞き、会社を辞めて妻とともに実家に戻り、家業を手伝ってくれています。
甲の家族は、長男丙のほかは、妻乙(55歳)、次男丁(25歳)がいます。
発行済株式総数は、1000株であり、そのうち、甲が700株を保有し、妻乙、長男丙、次男丁がそれぞれ100株ずつ保有しています。
甲は、A社に対し、1000万円を貸し付けていますが、利息や弁済期の定めはなく、実質的には会社の自己資本となっています。
また、甲は、日々の生活費のためではない預貯金として1000万円を金融機関に預けています。これは、先代から、会社の経営が傾いた場合に会社の資金繰りの原資に使うようにと言われていたものであり、甲自身も今までこの預貯金に手をつけたことはありません。
さらに、甲は、A社に甲個人所有の土地(時価1億円)を会社に月額100万円で貸し付けています。
甲は、銀行からA社への事業資金の融資について連帯保証人となっており、自宅の土地・建物(時価5000万円)を担保として提供しています。
なお、甲は、自宅の金庫に常時、現金500万円を保管しています。
このような状況の下で、甲が急死してしまった場合、どのような問題が起こるのでしょう。
甲が保有していたA社株式700株は、共同相続人間でどのように分配されるのでしょうか?
甲の死亡後、妻乙と長男夫婦の仲が悪くなった場合、妻乙あるいは長男夫婦は自宅を追い出されてしまうのでしょうか?
甲が会社に対して有する1000万円の貸付債権、甲の預貯金、甲がA社に対して有する月額100万円の賃料債権、自宅の現金は、甲の死亡後、どうなってしまうのでしょうか?
また、銀行に対する甲の連帯保証債務や担保はどのように承継されるべきなのでしょうか?
これらの事項について、法定相続の場合の事例への当てはめを該当箇所で説明していきます。
株式⇒第2章・第3・4・(1)株式
現金⇒第2章・第3・4・(2)金銭
貸付債権⇒第2章・第3・2・(1)可分債権
預貯金⇒第2章・第3・2・(1)可分債権
賃料債権⇒第2章・第3・2・(1)可分債権
自宅⇒第2章・第3・4・(3)不動産
連帯保証債務・担保⇒第4章・第7・2 第4章・第8・2