郵政民営化には賛成だ。その理由は 以前の記事 でも書いた。


ネットで見かける反対意見は大きく2つある。一つは地方の保護。もう一つは外資脅威論。前者に対する反論を前回書いたが、後者に対する反論がまだなので、少し考えてみる。


国民の郵貯350兆円が米国に奪い取られる。
これが外資脅威論の柱となる主張だ。反論していこう。


1. ちょっと看板大きすぎ

350兆円が取られるというと、私の郵貯口座の残高がいきなり0円になる印象を受けてしまう。そんなわけはない。話し手は「金融資産の残高として」というつもりでも、受け手は「私の預金が取られる」と解釈しやすい。最初からこの誤解を狙って騒ぎを大きくしたいという意図が見える。外資脅威論は本質では正しい。だから変に嘘っぽく見えるような技巧を使わないで欲しい。外資驚異論の本質は次項で考える。


2. 新生銀行の二の舞

これこそ外資脅威論の本質だ。新生銀行の売却は明らかな失敗であり、多くの日本人が苦い記憶を持っている。同じことが郵政民営化で起こりうる。私の持つ結論から言おう。新生銀行の売却という判断は正しかった。しかし値段をつけ間違えたため失敗となった。つまり民営化そのものではなく、値段をつける段階で失敗しなければ、新生銀行の轍は踏まない。


3. 失敗の原因

理解を助けるために数字を出そう。簡単に説明するための数字なので、真面目に計算せず、仮のものを使う。350兆円という金融資産に土地・建物等などを加えて、そこから預金残高などの負債を引けば、郵政公社の持つ資産残高になる。これを350億円と控えめに見積もってみよう。350億円の資産を持つ郵政株式会社の全株式を350億円で取得すれば、即座に会社を精算した場合に収支はトントンとなる。これが PBR=1 の株価として、市場価格の最安値という基準になる。300億円で取得し即座に精算すれば50億円が濡れ手に粟で手に入る。これは新生銀行と同じ失敗だ。失敗のポイントは300億円という安すぎる売却価格を決めたところにある。


つまり、民営化しますとか、株式売却します、と言っている段階では、成功も失敗もありなのだ。失敗して外資に濡れ手に粟で貢ぐ原因は、売却価格決定といった非常に事務的なところに隠されている。


4. 約束の値段

約束を守るのは道義的と考えるのは純粋な人だ。少し痛い思いやおいしい経験のある人なら約束に値段をつけることを知っている。たとえば金融商品のオプションというものは、約束を売買している。350億円の株式を300億円で売却すれば、不正がすぐにばれる。そこで50億円の価値がある「約束」を付加したものを350億円で売る。約束の価値を算定するのは素人には難しいのですぐにばれない。このようにして、不当に安い値段をつけてごまかすことが可能となる。


5. 新生銀行売却の真相(仮説)

新生銀行売却については、瑕疵担保条項が最大の失敗とされている。これは日本の官僚が愚鈍であったから外資に騙されたということになっている。しかし私は、すべて仕組まれたことではないかと思う。(※あくまで推理。)わざと瑕疵担保条項を付与し、その価格を算定しなかったのだ。政府の意図ではない。事務方(官僚)の誰かが意図したことだろう。さまざまな条件(約束)を加味した値段を判定する能力は政治家には無い。今の大臣で最もこの方面に明るいと思われる竹中にしても、その能力はない。彼は経済の専門家であり、金融商品のディーラーではないからだ。つまりこんな手のこんだ罠を用意できる人材は事務方にしかいない。たとえば、個人的に賄賂を受け取り、約束の値段が高いことを無視して売却価格を算定した者がいるとすれば、何もかもすっきり説明できる。(※あくまで仮説。)


6. 郵政民営化のウィークポイント

まとめよう。郵政民営化の際、新生銀行の時のように悔しい思いをする可能性があるとすれば、株式の売却条件を決定する瞬間に決まる。それをコントロールしているのは議会でも行政でもなく、官僚だ。


7. 別の視点

外資脅威論には、もう一つの見方がある。集約すれば、税金を投入したものを外資に持って行かれるから悔しいわけだが、その税金は既に郵便局長とその周辺に持って行かれている。つまり一般の国民にとっては税金泥棒がすり替わるだけで何の損得も発生していない、という見方ができる。


※ 私は調査機関の人ではないので、新生銀行については何の証拠もない机上の仮説です。ただ、郵政民営化に対する外資脅威論が、今後の対応で予防できることを説明するために、この仮説を載せました。