「ブランド? うちみたいなところには関係ない」
取材の現場で商業者から、こんな言葉を聞くことがあります。この場合の「うち」とは、「小さな会社」という意味であることが多いようです。
しかし、本当にそうでしょうか。
プレミアムクラフトビール「COEDO」や抹茶カフェド「ナナズグリーンティー」、山形の手織じゅうたん「山形緞通」など、話題の企業のブランディングデザインを手がけてきた西澤明洋さんによると、ブランドとは「企業の持つ強みや価値を速く、遠くまで伝える」手段。
ならば、企業規模の大小に関わらず、いえ、発信力の弱い小さな企業ほど「速く、遠くまで伝える」道具を備えるべきなのです。
北海道の小さな町で、強いブランド力を持つ小さな店と出合ったときのお話です。
転機となった顔出し看板
日本有数のスキーリゾート、北海道ニセコ町の隣り、倶知安町にある和洋菓子店「お菓子のふじい」。小さな店ですが、その販促とブランディングの取り組みが並大抵ではありません。
同店の三代目、藤井千晶さんが修業先から戻り、まず取り組んだのが売場のPOPづくりでした。
「新しい商品をつくっても売れなかったので、POPをつくってみたんです。でも、まったく読んでもらえませんでした」
そこで彼女は店頭で、お客の行動、目線の動き方などを観察。
そして、業種業態にとらわれず繁盛店のPOPを見て回り、真似ることから始めました。
やがてお客がPOPに注目してくれるようになり、それにつれて売上げも上がっていきました。
次に彼女が取り組んだのが、今では同店の名物となった「顔出し看板」です。
もっとも田舎町ゆえ、目だったことをするのも周囲の目が気になることも事実でした。
しかし、彼女はその葛藤を乗り越えます。
「商店街や町内の人に否定されるのは怖かったです。けれど、やがてニセコへスキーに訪れる外国人観光客を中心に看板を楽しんで撮影してくれるようになり、その姿を見て間違っていなかったと実感しました。お客さまが喜んでくれることに対して、周囲の人に引け目を感じることはありません。いろいろ取り組めるようになったのはそこからです」
今では季節に応じて3種類の顔出し看板が店頭を飾り、町のランドマークとなっています。
大活躍のブランドマネージャー
従業員総勢6人の小さな店ですが、じつは同店にはブランドマネージャーがいます。
店内に据え置かれた黄色いオーブンから生まれたキャラクター「オーブンちゃん」です。
自分の名刺を持ち、顔出し看板や店のフェイスブックページ、壁新聞、リーフレットなどあらゆる販促物に登場し、同社のブランディングを担っています。
「販促をしようと思ったわけではなく、商品を伝えたかっただけなんです。私の場合、販促の前にブランディングがありました。店のイメージを統一するために、POPには3色以上使わないとか、イメージカラーは紺と黄色といったルールができました。そのルールに従って販促物をつくったので、色やテイストがバラバラにならなかった。ブランディングという柱があったから販促もブレずにまとまったと思います」
こう語る藤井さんが販促上もっとも大切にしているのは「売る」ことではなく「伝える」こと。
きちんと伝えていればお客は反応してくれ、結果、商品は売れるといいます。
ブランドとは強みや価値を速く、遠くまで伝えること。
同店では、その役割をオーブンちゃんが担い、ソフト君とソフ子がそれをしっかり支えているのです。
こうした藤井さんのブランディングに基づく販促の取り組みについて、現在発売中の商業界3月号で8ページにわたって特集しました。
「ブランド? うちみたいなところには関係ない」
そんなこと言っている、あなたにこそぜひ読んでほしい一冊です。