日本有数のスキーリゾート、北海道ニセコ町の隣町、倶知安町にある小さな和洋菓子店。
藤井千晶さんと夫・隆良さんが切り盛りする「お菓子のふじい」の存在は少し前から知っていました。
商業界が主催する作品コンテスト、POP大賞や看板大賞でいつも入賞する店、それがお菓子のふじいでした。
倶知安駅からすぐにところにある同店は遠くからでもよくわかります。
店頭に顔出し看板が置かれ、その隣には顔が描かれ手足のついたソフトクリームの置物があります。
いや、失礼。
単なる置物ではなく、同店の広報を担当するキャラクター、ソフト君なのです。
店内に入ると目に飛び込んでくるのが、存在感のある黄色いオーブン。
こちらは同店のブランドマネージャー、オーブンちゃんです。
製菓専門学校で和菓子づくりを学び、同業他店で修業をした後、千晶さんは25歳で家業を継ぎました。
「学校のクラスメイトのほとんどが跡継ぎ息子でした。彼らの中には家業を継ぐために仕方なく菓子づくりを学んでいる人もいました。一方、卒業後に参加した異業種交流会で知り合った起業家たちはとてもモチベーションが高い。これではかなうはずもありません。だから私は、跡継ぎではあるけれど起業する気持ちで継ぐと親に宣言したんです」
こうして新しい商品づくりに取り組んだのですが、思うように売れません。
POPを書くものの、誰も見てくれない日々が続きました。
そこでPOPが読まれない理由を見つけるために、店頭でお客さんの行動、目線の動き方など、とにかく観察しました。
さらに同業他店はもちろん、業種業態を問わず、千晶さん自身が気になるPOPがある店を見て回りました。
現在の形になるまで2年以上かかりましたが、彼女はそこに集中し続けたのです。
そこからは顔出し看板、キャラクター設定、壁新聞など、お客さんを楽しませ、また来たくなる動機づけを重層的に組み立てています。
「販促をしようと思ったわけではなく、商品を伝えたかっただけなんです。販促の前にブランディングがあります。そしてブランディングする上で欠かせないのは経営理念なのです」
こう語る千晶さんが販促をする上で大切にしているのは、売るためではなく商品をどう伝えるかという点です。
きちんと伝えていればお客さまは反応してくれ、結果として、商品は売れていくと千晶さん。
小さな店の小さな店のすごい販促。
その取り組みは販促を超えて、同店が「誰に」「何をもって」「幸せを提供しようとしているのか」という、店にとって大切なものを表現しています。