およそ遠しとされしもの。
下等で奇怪、見慣れた動植物とはまるで違うとおぼしきモノ達。
それら異形の一群をヒトは古くから畏れを含み、いつしか総じて蟲と呼んだ。



★2014年4月より放送の「蟲師 続章」→ 蟲師 続章 あらすじまとめ

★前のお話は→ 蟲師 あらすじまとめ

蟲師 第12話 眇の魚 (すがめのうお)



☆ギンコの原点となる話。2006年に放送されたものです。

     蟲師12-1

母と行商をしていた少年、ヨキは山で迷い崖崩れにあい母を失う。ケガをして倒れていたヨキを助けたのは蟲師の女性、白髪で隻眼のぬいだった。

     蟲師12-3

ぬいの家で目覚めると奇妙なものが見えた。蟲が見えるのかとぬい。ああいうまだ光を帯びている輩は大した影響力をもたないから怯えることはないと言った。蟲が見えない母はそんなものは幻だと言っていた。心を強く持つんだよと。ヨキは亡くなった母のことを思い泣いた。

     蟲師12-2

早く治して出て行ってくれとぬいは言った。足のケガも動かせるくらいに回復してきていた。杖を持って外に出て見るヨキ。ぬいの家の池には魚がいた。何て魚だろう、真っ白で目が緑色。そしてどれも片目がなかった。ぬいはそれは池に棲む蟲のせい、夜や明け方は近づくんじゃないよと言った。

     蟲師12-4

池の周りにも蟲がいた。ヨキはあれは幻じゃないんだよねとぬいにたずねた。僕らとはまったく違うものなの? ぬいは存在しているとも幻とも言えないと言った。在り方は違うが拒絶された存在ではない。われわれの命の別の形だと。

杖なしで歩けるむようになったヨキにぬいは足はそろそろいいんじゃないか、帰る家もあるんだろうと言った。ヨキはずっと母さんと物売りして歩いてたから帰るとこはない、それに足はまだ歩くと痛いと言った。池の蟲はどんなヤツなのか教えてとヨキ。ぬいは姿は「闇」としか言えないと話した。

     蟲師12-5

闇にはふたつある。ひとつは目を閉じたり陽や明りを遮った時にできる闇。もうひとつが「常の闇(とこのやみ)」で昼間は暗いところでじっとしているが夜になると池を出て小さい蟲を食う。明け方、時に池が銀色に光っていることがある。食った蟲を光に分解しているのだろうが、それを繰り返し浴びると、池の魚やぬいの髪や目になるのだという。

ここにいたら、もうひとつの目もなくなるのではとヨキは心配するが不思議と両目がない魚はいないから、そういうふうにできてるんだろうさとぬいは言った。闇のような姿の蟲の名前は「トコヤミ」光を放つのはトコヤミに棲む別の蟲のようだが名前があるかは知らないので、ぬいは「銀蠱(ぎんこ)」と呼んでいた。

     蟲師12-6  

ぬいは蟲を寄せる体質で蟲煙草を吸っていた。またたぶん銀蠱のせいで夜目が利いた。ぬいはヨキに、夜、山を一人で歩いていると道を照らしていた月が急に見えなくなったり星が消えたりして方向がわからなくなる時がある。それは普通にもある事だが、さらに自分の名前や過去の事も思い出せなくなっていたら、それはトコヤミが側に来ているためだと教えた。

どうにか思い出せれば抜けられるが、どうしても思い出せない時は何でもいいからすぐ思いつく名をつければいいそうだと言った。その代わり前の名だった頃の事は思い出せなくなるそうだが。

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ヨキはぬいがどうしてこの山の中に一人でいるのか聞いた。この山の先にある里がぬいの故郷。生来蟲を寄せる性質があり、ひとつ所に留まれず蟲を払いながら里を巡る蟲師をして旅をしていたが、足しげく里に戻っていた。親や友人そして何より夫と子供に会うために。

だがある時、里に戻ると夫と子、そして父や友人を含む多くの里の者が、山に入ったきり戻らないと聞かされた。ぬいは山中を捜し回りこの池にいるのがトコヤミだと気づいた。トコヤミにとらわれたらどうなるか、どうすればいいのかは他の蟲師から伝え聞いていたが、彼らはまださまよっているのだと、あきらめきれずにここにいる。もう6年になるという。ヨキは捜すのを手伝うと言うが、ぬいは自分だけでやりたいからダメだ、ここにいるための口実にするんじゃないよと言った。

ぬいは何か隠していると感じたヨキは明け方ひとりで池に行く。そして銀蠱の光の中で魚の残った目がつぶれて消えていくのを見た。何してんだいと来たぬいに、片目の魚しかいないのは両目がなくなったら消えちゃうからなんだねと言った。消えるのではなく銀蠱の放つ光が生き物をトコヤミに変えるのだとぬいは言った。

どうして知っててそのままにしたのか、こんな恐ろしい蟲をどうして生かしておくんだよとヨキ。ぬいは言った、「畏れや怒りに目を眩まされるな、皆ただそれぞれがあるようにあるだけ」逃れられるモノからは知恵ある我々が逃れればいいと。

蟲師とは古来からその術を探してきた者達。ぬいも銀蠱の記録を取り続けた。そして魚の行く末に気づいた時にはもう自分も光を浴びすぎていた。片目の魚を池から離したりして試したが一度白化が始まった魚は多少の時期の遅れは見られても、いずれは両目を失いトコヤミとなった。

     蟲師12-8

それでも夫や子らがトコヤミになったと認めたくなくて捜し歩いたが、すべてはここにあると悟った。全部手遅れなんだ、わかったらお前はもう出てお行きとぬい。いやだ、ぬいもここを出ようとヨキは言うが、お前がいると辛いばかりだ頼むからもう行ってくれ、お前なら旅の暮らしもできるだろう、愛する故郷がない事はきっとお前には幸運だとぬいは言った。俺の故郷なら一番長くいたここだとヨキは言ったが、ぬいはここは私とトコヤミ達の場所お前のいていい場所じゃないと言った。

     蟲師12-9

これでもういいよなあとぬいは池に向かう。残った目もつぶれた。池の光を見たヨキは、行っちゃいやだと消えそうなぬいの後を追った。捕まえたぬいの手は温度がなかった。なんてこと、戻るんだ、もうじき銀蠱が目を覚ますからできる限り遠くに行くんだとぬい。

     蟲師12-10

お前の手は温かい。私はもう目玉はないがお前の目玉がこちらを見ると陽のあたるように温かだ。あの仄暗い池の傍らでそれがどんなに懐かしかったことかとぬいは言った。「この先は片目を閉じてお行き。ひとつはトコヤミから抜け出すために銀蠱にくれてやれ。だがもうひとつは固く閉じろ。また陽の光を見るために

     蟲師12-11

銀蠱が現れた。そしてぬいは消えた。ヨキは歩き続けた。外界らしき所に出たが夜は明けなかった。また月、さっき沈んだばかりなのに、これで何回目だっけ。自分の名前がわからなくなった。こういう時、どうすればいいんだっけ......何でもいいから思いつく名前......その翌日、右目は陽の光を見ていた。

     蟲師12-12

里にたどり着いて倒れたところを男に助けられる。名前以外は何も思い出せなかったが、何ならずっとここにいてもいいぞと言ってくれた。ただ、左目の穴は、陽の下でも闇をすくい取ったように昏く、それは奇妙なものを寄せつけた。このままここに寄せ続けたらあれらは災いを呼ぶと思った。

     蟲師12-13

少年は里を後にした。何も思い出せなかった。自分の名が「ギンコ」ということ以外は。

★原作では第3巻にあります。