日常を生きていて、優しさと思いやりに違いがあると認識している人はあまりいないと思う。が、筆者は外国に住むようになってから、明らかにこの二つが違うことに気付くようになった。そして、外国には優しさは溢れているが、思いやりをに出会うことはまずもってない、いや、10年以上住んでかつてなかったような気がする。実はこの二つの違いを知ることこそが、日本とその他の国々との文化における違いを理解する重要な鍵であり、ついては国際情勢を理解する上での鍵にもなるのである。
 
 外国、特に欧米の先進国に住んでいるとよく目の当たりにするのが、ドアを開けて後ろの人が来るのを待つ光景である。以前あるタレントが日本のTVでこの話をもちだして、「日本人は本当に文化的に遅れている、こういう優しさが全くない、外国のレベルに達するのは難しいと思う」というようなことを言っていたが、筆者はこれを観たとき思わず吹き出してしまった。ちなみにこのタレントは外国での生活経験をもつ人であるのであるが、あまりにも客観的分析ができていないと感じたものである。

 客観的分析による結論から言おう。外国には優しさはたくさんあるが、思いやりはゼロである。そして思いやりは、日本でしか見つからない。では、この二つの違いはなんなのか。

 優しさとは主観的視点から生ずる行為である。つまり、自分の立場、視点からみて、対象となる人が、身体的に劣っているか、あるいは知的に劣っていると主観的に「判断」される場合に発動される援助の行為である。もちろん、これはあくまでも主観的な判断によるので相手の気持ち等は全く考慮に入らない、あくまでも援助をする行為者の「判断」によって発動される行為である。この場合は、目線は対等ではなく、完全に上下、というより上からの目線である。常に、「助けてあげる」という思いが、行為者にある。その行為は常に当事者からも第三者からも明確である。

 対して思いやりとは、自分の立場ではなく、相手の立場、視点から「観ようとする」努力から生じてくる行為である。つまり、客観的視点である。「ようとする」といったのは、主体と客体に別れている以上、相手の立場や視点をもつことは物理的に不可能であるからであるが、それでも、そうしようと「努力」しているということである。相手の立場からみると同時に、目線に上下はない。相手が劣っているから助けてやるという上からの目線はなく、相手が困っているのをなんとか助けたいという対等の目線からくるものである。日本語の「お互い様」という言葉は実にこの文化を象徴している。であるから、当然、思いやりの場合、思いやりを受けた側は、それに気付かないという現象も起きてくる。むしろ、相手に気付かれないようにするのが思いやりであったりすることが多い。相手は死ぬまで気付かないか、あるいは大分時間がたってから気付いたりする。つまり、その行為は当事者はもちろん、第三者にも極めて不明確になることが多い。思い遣りとは、「思い」を相手の立場に「派遣」する行為であるが、言い得て妙な言葉である。行為を受けた側が後々それを恩義に感じるような負担をかけまいとするものだったりする。

 路上にいる乞食にお金をあげる。身体障害者に手を差し伸べる。知的障害者の為に買い物を代行してあげるなど、非常に明確な形で行われるのが優しさの例。筆者は客観的に言ってこういう優しい人は外国にもたくさんいるし、むしろ、主観度の高い文化であればあるほど、こういう優しい人は多いようにも見受けられる。

 対して思い遣りの例で言えば、例えば、身体障害者が路上を横断するとき、優しい人は近づいて声をかけて手をもってあげたりしようとする。対して思い遣りのある人は、その側にいってその人が実際に無事に渡り終わるまで見守ったりする。なぜなら、その障碍者の方は、他人になるべく迷惑をかけたくないと思っているかもしれないし、自分の力で一生懸命生きようとしているかもしれない。そういうとき、近づいて声をかけることは、そうする本人には主観的に自己満足にはなるが、相手にとっては返って苦痛になる可能性がある。繰り返すが、そういう「思い」を相手の立場に「派遣」するのが、思い遣りである。何かあった時の為に、側を歩いてはいるが、本人に気付かれないようにするのはその為である。無事に渡り終えたら黙ってその場を立ち去るのが思い遣りである。相手の為にやっていることなので、別に他の人にそれをわかってもらう必要もない。

 ようは、「みてみて、俺は今、人を助けたよ!」とアピールするのが主観的な優しさで、誰にも気付かれずに相手にとってのベストを考慮するのが客観的な思い遣りなのである。自分からのみの目線で、自分からのみの考えで行われる行為が優しさであり、相手の立場に立とうとして(完全に立つことは最初に言ったように不可能)行われる行為が思い遣りということである。

 次回はさらにこの話をしてみたい。

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