海外で活躍する日本人(その4)~主要4団体認定、そして本物の世界へ~ | 10papaのボクシングブログ

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趣味で(月1回程度)書いております。

だいぶ期間が空いてしまいましたが、海外で活躍する日本人編は今回で最後です。



前回までは、海外で活躍する元世界チャンピオンの高山勝成選手や石田順裕選手を紹介してきました。


彼らは自分の意思により海外で活動していますが、結果的に今日本では試合が出来ない立場となっています。

それは、彼らがIBF、WBOといった日本ボクシングコミッション(以下、JBC)では非公認団体の世界タイトルマッチに挑戦したためです


JBC非公認の団体の世界タイトルに挑戦するためには、選手はJBCに引退届けを出さなければならず、以後日本での試合はで
きなくなるのです。



この話はこれまで何度もしてきましたが、ではなぜJBCはこれらの団体を認めていないのでしょうか?


これについては、世界のボクシング団体に関わるこれまでの経緯と現在の状況を整理しながら説明していきましょう。




まず、現在世界的に認められているボクシング団体を設立順にあげると、以下4団体になります。


●WBA(世界ボクシング協会) 1921年設立
●WBC(世界ボクシング評議会)1963年設立
●IBF(国際ボクシング連盟) 1983年設立
●WBO(世界ボクシング機構) 1988年設立


この中でJBCが認めているの団体は老舗団体のWBA、WBCのみです。
その他の団体をなぜ認めていないかと言うと、安易に認定団体を増やす事でチャンピオンが乱立することを防ぎ、チャンピ
オンの権威を保つためです。


確かに世界チャンピオンと言いつつ、同時に4人もいるようでは、分かりづらいし説明がつかないですよね。

特にWBAにおいては暫定王者すら認めないという厳格なルールを持っており、JBCは「本物の強いチャンピオン」しか認めないというスタンスを貫こうとしてきました。



しかし実際は老舗団体であるWBAやWBCの腐敗や、IBF、WBOの台頭による地位向上により、JBCの「チャンピオンの乱立を防ぎ、強い王者しか認めない」というスタンスが脆くも崩れさっている感があります。
むしろ結果的に老舗団体しか認めていないこのJBCのスタンスが、保守的とか、時代遅れといった印象を持たれている部分
があります。



それはどういう事か、もう少し具体的に、近年の主要4団体の状況を説明していきましょう。




(1)WBA


1921年設立の最も歴史あるボクシング団体。
しかし近年、チャンピオンの乱立(意味のないスーパーチャンピオンや暫定チャンピオンを大量に認定)や不可解なランキ
ング操作(実績のない無名選手が突然ランキング上位にランキングされる)などの腐敗が進んでおり、主要ボクシング団体の中で現在最も評判が悪い。
これらの対応はいずれも、強い者が上に立つというボクシング本来の実力主義から大きく離れ、試合を主催するプロモータ
ーの都合に合わせた収益優先の行動と見られている。



(2)WBC


WBAの次に古い団体であり、私自身も主要団体の中では最も信頼できる団体と考えていた。
しかし、最近は名誉チャンピオン、ダイヤモンドベルト、シルバーベルトなど、解りづらいタイトルが乱立しており、迷走
が始まっている。
特に亀田家三男の亀田和毅選手がWBCシルバータイトルを獲得した経緯には不可解な点(※1)が多く、WBA同様の腐敗が懸
念されている。
(※1:世界チャンピオンに準ずるシルバーベルトを懸けた決定戦にも関わらず、亀田和毅選手の対戦相手は二転三転と変
更になった挙句、6回戦までの試合経験しかない無名若手選手となり、その試合に勝利した亀田和毅選手がWBCのシルバーチャンピオンになった。)



(3)IBF


1983年に設立。設立当初は、不透明やランキングや質の低い選手達によるタイトルマッチによりチャンピオンが次々誕生し、世界王座としての権威に疑問が持たれていた。また、ランキング不正操作を伴う贈収賄事件や替え玉挑戦者事件が発生するなど、問題も多かった。
これらの経緯もあり、現在は「暫定王座を極力作らない」、「前日計量から試合当日まで4.5kg以上体重を増やしてはいけ
ない」など、他団体と比べ、より厳格なルールを敷き運営していく事で、徐々に権威を取り戻し、世界のメジャー団体として認めれらるまでになっている。
逆に現在は、プロボクシングが公認されている国でIBFを認めていないのは、日本を含め3か国のみになっているのが現状
である。



(4)WBO


1988年に設立した最も新しい団体。設立当初は、複数階級制覇チャンピオン生み出すためや、注目度の高い試合にハクを付けるためにタイトルを懸けるなど、安易に利用されてきたマイナー団体という印象が強かった。
しかし、その中から人気選手や実力を持った選手が次々と台頭してきて、地位を確立。世界のメジャー団体として認めれら
るようになった。
特にマニー・パッキャオやノニト・ドネアなど、アジア出身のスーパースター選手が、WBOのベルトを保持してきたことで
、日本でも知名度が上がってきている。




とまあ、このような状況ですから、JBCのスタンス「WBA,WBCしか認めない」=「本物の強いチャンピオンのみ支持」には、ならない状況なわけです。




もう一つ、別の観点から見てみましょう。


過去に何度か紹介してきた、PFPランキング(団体や階級の垣根を越え、最も強いボクサーをランク付けしたもの)がありますね。
ここでランク付けされるボクサー、つまり世界で最も強いボクサーとして名を連ねるチャンピオン達は、どの団体のベルト
を持っているのでしょうか。


以下にPFPランキングトップ10の選手と、その選手が保持する世界タイトルを記載してみました。



1.フロイド・メイウェザーJr
   現WBC世界ウェルター級王者
2.マニー・パッキャオ
   元WBO世界ウェルター級王者
3.アンドレ・ウォード
   現WBA世界スーパーミドル級王者
4.セルヒオ・マルチネス
   現WBC世界ミドル級王者
5.ノニト・ドネア
   現WBO世界スーパーバンタム級王者
6.ファン・マヌエル・マルケス
   現WBO世界スーパーライト級王者
7.ウラジミール・クリチコ
   現IBF世界ヘビー級王者
8.ティモシー・ブラッドリー
   現WBO世界ウェルター級王者
9.ビタリ・クリチコ
   現WBC世界ヘビー級王者
10.アンセルモ・モレノ
   現WBA世界バンタム級王者


 ※2012年10月時点の主要機関のランキングをベースにしています。
  元チャンピオンは最後に保持していた団体タイトルを、
  複数団体のタイトルを保持している現役チェンピオンは、

  最初に取得した団体タイトルを記載しています。



集計すると、
WBA:2名、WBC:3名、IBF:1名、WBO:4名
です。


団体により大きな差はありませんが、一番最後に設立されたWBOが最も多いですね。


これってどういう事かというと、「一番強いやつと戦いたい!」と願うボクサーがいたとして、それがWBA,WBCしか認めない日本では叶わないという事になります。


本物の強いチャンピオンしか認めないJBCがそんなことで本当に良いのでしょうか?



みずから定めたルールと世界の実情とのギャップが生まれ始めているJBC。
しかしながら実はこの規制も徐々に緩和傾向にあるようです。


ここ数年、以下のようなタイトルマッチが日本でも実現しています。


●2010年 4月30日 WBC・WBO世界バンタム級統一タイトルマッチ
         長谷川穂積 vs フェルナンド・モンティエル


●2012年10月13日 WBO・WBCダイヤモンド世界スーパーバンタム級タイトルマッチ
         西岡利晃 vs ノニト・ドネア



これらの試合は、日本の選手が非公認のWBOのタイトルに挑戦するかたちになっています。

では試合をする長谷川穂積、西岡利晃選手はJBCに引退届けを提出したのかというと、そうではありません。


この時、両選手はJBC認定のWBC世界チャンピオンという立場で、非公認のWBO世界チャンピオンと対戦する統一戦をすることになっていたのです。


JBCもこれらの試合を成立させるため、「世界王座統一戦に限り、未公認団体王者との対戦を認める」ということで規制緩和したのです。



しかし、この容認自体、煮え切らないというか都合がいいというか、非常に中途半端な対応ですよね。
そんな中途半端なことするくらいなら、さっさとIBF,WBOも認めてしまったらどうか?と思うのは私だけでしょうか?



確かに現在の世界のボクシング事情は、団体が増え、世界チャンピオンが乱立しているのは事実です。
しかし、だからこそチャンピオン同士の熾烈な統一戦が増えたり、ベルトをかけたタイトルマッチよりも実力者同士の試合
に注目が集まる傾向にあります。


結局ボクシングファンは一番強いのは誰なのかを知りたいし、強い選手同士の戦いを望んでいるので、どんな形であれ最終的にはそこに需要と注目が集まっていくのです。


現在JCBが定めている制限は、本当に強い選手同士の戦いを制限してしまうだけでなく、ボクシングという厳しい戦いに身を置く日本の選手たちのチャンスを潰してしまうと言えないでしょうか。



前回までの記事では海外で活躍する日本人ボクサーを紹介してきました。
彼らの活動はもちろん自ら選んで進んだ道ではあるのですが、JBCの曖昧な規制により結果的にはJBCから引退に追いやられ
、保障もない世界で自分たちの力のみで道を切り開いています。
JBC引退がなければ、まわりからの支援や環境も整いやすくなり、彼らの活動はもっとやり易いものになっていたかもしれ
ません。


それでもなお元世界チャンピオンという実績のある彼らは、まだ恵まれているかもしれません。
ボクシングという競技は、日本国内ではまだまだ金銭的な自立は難しく、ほとんどの選手がバイトや会社勤めをしながら、
日々練習しチャンスを待っているのです。
厳しい環境の中でチャンスを待ち続ける彼らにとっても選択肢が増えることは決して悪いことではないし、多くの選手がそ
れを望んでいるのではないでしょうか。



いまJCBが世界の主要4団体を認めようが認めなかろうが、これらボクシング団体の世界的な価値が変わるわけではありません

であれば中途半端な規制により活動を制限させるのではなく、日本人ボクサーも他の国と同じように世界の舞台に平等に羽ばたかせてあげるべきではないでしょうか。





とまあ、そんなことを常々考えていたわけですが、実はここ最近、JCBも主要4団体認定に向け、いよいよ本格的に動き出したようです。

そして、早ければ来年にもIBF,WBOを認定する見通しのようです。



ボクシング人気がイマイチの日本では、団体が増えることで一般の人には益々理解しずらい状況になるかもしれません。


しかし、これにより一般の人達も本当に強いボクサーや本物のボクシングの試合に触れる機会が増え、理解も深まり、ボクシング人気が少しでも良い方向に向かえば幸いですね。


そしてその時は、いち早く海外で活躍した高山選手や石田選手、そして西岡選手といったパイオニア達の存在も正しく評価されるのではないでしょうか。



今まで日本のボクシング界は閉鎖的でした。


その為、亀田兄弟のように実力以外の要素を駆使し、世界の強豪選手の網の目をくぐるようにして、形だけのチャンピオンとして生きながらえ、ビックマウスを吐き、一般の人達にはあたかも本当に強いチャンピオンのように伝えられている一方で、海外で世界のトップ中のトップと勇敢に戦い敗れた本物のボクサー達は、その価値を十分に伝えられてきませんでした。


そしてそれを一部のコアなボクシングファンだけが理解し、憂いていたのです。


しかし、それではいけないと、JBCは世界のボクシングに門戸を開き始め、選手一人一人は「本当に強い選手と戦いたい」と願うようになり、まさに日本のボクシング界全体が、本物志向、世界標準へと移り変わろうとしているのです。


多くのボクサーに広く平等にチャンスが与えられ、偽者はすぐにメッキが剥がされ、本物のボクサーだけがステージに上がることが出来る本物の世界。

ボクシング人気も高まり、一般の人達にも正しく情報が伝わり、理解が深まる事で、本物のボクサーがキチンと評価される世界。


日本のボクシング界がそんな風になったら、本当に良いですね。


そんな事を望みながら、これからの日本ボクシング界に期待をしていきましょう。



(終わり)


~~ 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました ~~





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