短編小説 夏の風景☆第八話
義 夏の風景 水本爽涼
「おお…上手い具合に、よお冷えとる…」
じいちゃんは、僕の家に昔からある湧き水の洗い場へ西瓜を浸けておいた。それは朝らしく、猛暑の昼下がりの今だから、よく冷えていた訳だ。僕は昼間、その洗い場で水遊びをするのが日課となっている。というのも、前にも云った筈だが、これからじいちゃんの離れで昼寝をしなければならないからだ。別にどこだって寝られるじゃないか…と思うだろうが、じいちゃんの離れへ行かなければならないのには、それなりの理由がある。それは、後日、語ることにしよう。で、そうなると、じいちゃんは電気モノを嫌うから、体を充分に冷やしておかないと眠れない訳だ。そこで、昼寝前の水遊びが日課となった…とまあ、そういうことだ。じいちゃんは夏に汗を掻くのが健康の秘訣だと信じている節がある。汗を掻いて西瓜を頬張る…これが、じいちゃんの健康法なのだろう。
「おい、正也。お前も食べるな?」
「うん!」とだけ愛想をふり撒いて、僕は洗い場から上がった。この湧き水は、いったいどこから湧き出てくるのだろう…と、いつも僕は不思議に思っている。知ってる限り、枯れたことはなく、滾々(こんこん)と湧き続けている。
家へ入ると、じいちゃんは賑やかに西瓜を割った。力の入れ加減が絶妙で、エィ! っと、凄まじい声を出して切り割った。流石に剣道の猛者(もさ)だけのことはある…と思った。
「父さん、私は一切れだけでいいですよ…」と、遠慮ぎみに父さんが云った。
「ふん! 情けない奴だ。男なら最低、三切れぐらいはガブッといけ!」
じいちゃんは包丁を持ったまま御機嫌が斜めだ。弾みでスッパリ切られては困るが、その危険性も孕む。
「お義父さま、塩とお皿、ここへ置きますよ」
母さんも遠慮ぎみである。
「未知子さん、あんたも、たんと食べなさい」
母さんは逆らわず、笑って首を縦に振った。
それから四人で西瓜を食べたのだが、これにも逸話がある。父さんは上品に頬張ったのだが、じいちゃんの食いっぷりは、これまた凄まじかった。僅(わず)か四、五口で一切れなのだ。三人は食べるのも忘れ、呆気にとられてじいちゃんを見るばかりだった。
「恭一、お前が買ってきた某メーカーのアレな。アレは実にいい、よく眠れる…」
「お父さんは電気モノがお嫌いでしたよね? 確か…」と暗に殺虫器は電気式だと強調する。
「お前は…また、そういうことを云う。いいモノは、いいんだ!」
じいちゃんも現金なもんだ…と僕は思った。
猛暑日は、今日で四日も続いている。
第八話 了