短編小説 夏の風景☆第五話 | 水本爽涼 歳時記

短編小説 夏の風景☆第五話

          夏の風景     水本爽涼


  第五話 アイス・キャンデー事件                      アイスキャンデー事件  

 今日は朝から気温がグングン昇り、昼過ぎには、なんと36度を突破した。いつもは気丈なじいちゃんでさえ、流石に萎えている。

「地球温暖化だなぁ…。わしらの子供の頃にゃ考えられん暑さだ。ふぅ~、暑い暑い…」

 隣で昼寝をしていた僕は、じいちゃんのひとり言に、安眠を妨害され目覚めた。声がした方へ寝た状態で首を振ると、じいちゃんは団扇(うちわ)をパタパタやっている。別にクーラーや扇風機がない訳ではない。じいちゃんが嫌いなので、僕はいい迷惑をしている。

「こりゃかなわん。水を浴びるか…。真夏日、いや、猛暑日だとかテレビが云っとったな」

 また、ひとり言を口にして、じいちゃんはヨッコラショと立ち上がった。そして一瞬、僕の寝姿を見た。目と目が偶然、合った。

「なんだぁ正也、寝てなかったのか?」

 そんなことを云われても、暑さに加えて団扇パタパタ小言ブツブツでは、眠れる方が怪しい。

「じいちゃん、冷蔵庫にアイス・キャンデーがあるよ。朝、二本買っといたから、一本やるよ」

「ほう…気前がいいな。正也は金持ちだ…。じゃあ、水を浴びてから戴くとするかな」

 僕の方を笑い見て、じいちゃんはそう云うと浴室の方へ歩いて消えた。

 暫(しばら)くして、僕が眠りかけた頃、シャワーを終えたじいちゃんが、また戻ってきた。

「おい、正也。キャンデー一本しかなかったぞ」「そんなことないよ、ちゃんと買っておいたんだから」「いや、確かになかった…」

 押し問答をすれば暑いのが益々、暑くなる。僕は跳ね起きて、冷蔵庫へと走った。

 じいちゃんの言ったことは間違ってはいなかった。僕は云った手前、仕方ないな…と諦めて、残りの一本をじいちゃんにやった。

 消えたアイス・キャンデー、犯人は誰なのか…、僕は刑事として捜査を開始した。

 夕方、呆気なく犯人が判明した。

「なんだぁ、食っちゃいけなかったのか? つい、手が出たんだが…。すまんな」

 犯人は父さんだった。今日は日曜で、父さんは遣り残しの仕事があったので、一日中、書斎へ籠りパソコンと格闘していたのだ。僕は、まず母さんを疑っていた。あとは母さんだけだと思い、父さんの存在を忘れていたのだから、まあ、父さんもその程度だ。

 夕食を囲んで、その話題で笑いあった。

「ハハハ…、今回は父さんが悪かったな。しかし正也、買った食い物は早く食べんとな」

「そうだな、それは父さんの云う通りだぞ、正也」と、じいちゃんも笑い、機嫌がいい。

「今日はゴキブリ出ないわねぇ…」と、母さんが突然、口を動かした。

「そりゃそうさ。某メーカーのボックスを昨日、仕掛けたからなぁ」と父さんが自慢げに解説した。

 罠にかかったゴキブリが、馬鹿馬鹿しい…と云った(コレは想像…)。

                                 第五話 了