このところ、部活動の休養日の義務付けや練習時間の制限など、日本におけるスポーツの在り方や見直しが話題になっている。

 

 私も遠隔ながら、各日本のメディアやブログ等に掲載されているスポーツ・教育関係者が語るそれぞれの意見を大変興味深く拝読している。

 

 私のように、サッカー界それもスペインの事情しかあまりよくは知らない者が気軽に意見するものではないと思うが、ただ中でも気になった「練習時間が減ることで競技力が衰退するのでは?」という一部の方々の懸念について私も考えてみた。

 

 かくいう私も18歳でスペインに来るまでは、サッカー、ソフトボール、ゴルフなど地元少年団や学校単位の部活動を通じてスポーツを楽しむ生粋の日本のスポーツ教育を受けてきたので、欧州のスタイルと日本のそれを私なりに比較することはできる。

 

 結論から言って、今日まで26年間におよびスペインサッカー界で指導者としてやってきたいま、フットボールに関してはそもそも『練習すればするほど巧くそして強くなれる』というような単純な競技ではないと私は思う。

 

 スペインのサッカーは、育成年代において優れた育成システムを持つといわれ、世界からも高い評価を得ている。私たちのクラブにも、膨大な数の指導者が世界中からひっきりなしに研修にやってくる。

 

 「ビジャレアルでは、選手育成のために何か特別なことをやっているのか?」と聞かれると答えに困るし、秘伝の育成レシピなどがあるわけでもない。ただ『常識ある範囲で』『選手を最優先に』『科学的な根拠をもとに』、いってみれば手探りで日々精進しているくらいで、他に何か究極に特別なことはしていないと思う。

 

 それでは、スペインの子達は日本の選手よりもより多く練習をしているのだろうか?いや逆に、日本の子供たちは本当に練習のし過ぎなのだろうか?

 

 私にもよく分らないので、ざっくりとうちの選手を取り巻く育成環境を数値化してみた。

 

 

 うちのクラブに入団し各年代のトップチームで育成を過ごした例を取る。こういう子達の場合サッカーのエリート少年で、青少年期をほぼサッカー漬けで過ごすため、スペイン国内でもサッカーに注ぐ時間が圧倒的に多いケースといえる。

 

 そんな彼らが、小学1年生から高校3年生までの12年間に練習と試合に費やす実質活動時間の総合計を私がざっと算出した結果3124時間となった。

 

 ただ、果たしてこれが多いのか少ないのか、やっぱり私にも良く分らない。

 

 日本には日本の特性もあって、例えば小学6年生、中学3年生、高校3年生の受験期に引退という名のもと子供たちがスポーツを数ヶ月間に渡って完全に中断する時期がある。これはアスリートにとって大打撃だ。

 

 スペインにももちろん受験はあるし、それなりに子供たちは学業でのストレスを抱えている。ただこちらの子達は「試験期間中は練習休んでもいいんだよ」とでもいおうものなら、「唯一の気分転換であるサッカーまで奪わないでくれ!」と”逆ギレ”される。その辺スペインの子達は、本当に上手に学業とスポーツをバランスよく自分の生活に取り入れているな、といつも関心する。

 

 表を見て頂ければ分るとおり、選手ひとりあたりに対するコーチの絶対数や、毎週末必ず試合に出場できる競技システム、ダラダラと何時間にも渡ってトレーニングをしないメリハリ、冬と夏にはしっかりと子供たちに完全休養を与える文化。

 

 組織として一貫した育成過程を提供、適度な練習量、良質な練習内容、全ての子どもに継続的に試合の出場機会を与える競技システムの構築、意味ある学びを習得できる最良のコンディション・・・こうした環境作りこそがスポーツの競技力を左右する。

 

 つまるところ、練習を何時間行うかではなく、「学習効果を高めるためのスポーツ環境作り」が何よりも重要なファクターだといえる。

 

 併せて、これまでのスポーツ指導者の意識改革、新時代の指導者養成・育成も早急に何とかしなければならない。それこそ日本スポーツ界の最重要課題と言えるだろう。

 

 たまに私も機会があって日本の選手と触れ合うことがあるが、痛々しいほど、脳も心も身体も疲労困憊している。まさにあってはならないスポーツ選手の姿である。

 

 日本スポーツの発展のために、一体私は何ができるだろう。

 

 ビジャレアルCF 佐伯夕利子

 

 

【参考文献】

 

国の部活動ガイドライン、練習規制はスポ根への挑戦状 ~関係者が今から準備するべきこと~

妹尾昌俊  | 教育研究家、学校業務改善アドバイザー、中教審委員

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/20180225-00081994/

 

長時間練習…それでも体育会系指導が勝てないワケ

帝京大ラグビー部監督 岩出雅之

http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20180307-OYT8T50008.html

 

元電通のTVマンが、早稲田大サッカー部の監督になってやったこと

早稲田大学ア式蹴球部 外池大亮監督

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180312-00006471-bunshun-spo

 

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