スプリング選定会議。 | 「うえしまクリニック」〜縁の下の整体師〜

「うえしまクリニック」〜縁の下の整体師〜

20年弱、サスペンションとセッティングに明け暮れて、いつの間にやら職人と呼ばれるように。

コンプリートセットアップしてこそクルマは変わります。

2022年9月。フリーランスとして起業しました。
足回り調整屋さんです。


東京、愛知などからsimpさん、とっぷりんさん御一行がやってきた。

「福島リンクサーキットの軽自動車草耐久レースでesseを走らせてますが、挙動が不安定なのでなんとかならないか」

おー、エッセは楽しそうだね。

聞けば、旋回中に3輪走行。しかも、フロントがインリフトだそうな。

それは勿体ない。前進まないよね。

仕様は、

・フロントには転がっていたクスコのねじ式車高調(車高合わせにプリロード多め)

・リヤは純正スプリング+容量の大きいパッソ純正ダンパー

の、組み合わせだそうだ。

ふむ、なるほど。そりゃフロントインリフトするわ。


これには2種類の問題が絡んでいる。


1.フロントの伸び側ストローク不足。

ねじ式とは言えノーマルよりは短小ダンパーに、強めのバネとプリロード。

鼻先の動きは俊敏だろうけど、この脚を潰し切るにはかなりの荷重が必要。

そこまで荷重が掛けられない場合は、少ししか脚が縮まない分「しか」伸びないので、
すぐに脚が伸びきってタイヤの接地圧が損なわれてしまう。

ステアレスポンスは良いが、粘りが無い脚と言える。


2.リヤのキャパシティ/レート不足。

エッセ純正スプリングは、お買い物ドライブ向け仕様なので、当然モータースポーツ向きでは無い。

低いレート、長大なストローク。

快適?かどうかは判らないが走行させると破綻こそしないものの、まったりした動きと転びそうなロール。

前後共ノーマルサスの場合は、クイックな運転を受け付けず、丁寧に操作をしてもロールアンダーが出る味付け。

これを現仕様のようにフロントのみ強くすると、バランスが崩れて動的な荷重変動がリヤ寄りになる。

加速時にリヤが沈み込み過ぎてフロント荷重抜け。

旋回中も破綻はしないものの終始アンダー。

怖くは無いが、つまらなくて遅い。

曲がらないのでフロントタイヤのショルダーばかり痛め付ける事になる。


このような症状を改善するには、モータースポーツ向けなら当然「リヤ側強化」なのだが、
エッセは意外にwebにもそのような記述が少ないんだよね。

お買い物やドレスアップに使う人が多いのか、レバー比やストロークなんて数値が皆無。

こりゃ難易度は高いね。

レースに強いエッセを作る店は、ネタを秘密にしてるんだな。


「こちらでも色々検討しましたが、どこのパーツを使えば良いのか判らなくて。」

simpさん達がそう思うのも尤もだよね。


さて、んじゃざっくりと実測で調べてみましょうかね。



ちょう原始的に、ジャッキアップしてリヤタイヤ外してまずは0G状態を計測。

そこからアームをジャッキアップして行って、バネやダンパーのストロークする推移を診る。

その実測値を元に、電卓と脳内補正を頼りに「スプリングとダンパーのレバー比を弾き出す」ワケ。

フルバンプまでストロークさせて、残りのスプリングの空間も計測し、ベターな交換用スプリングのスペックも導き出す。


スプリング別置き式のトーションビームなどのサスでは、このように計測しないと満足な車高とキャパシティを持たせた脚をつくる事が出来ない。

「リヤスプリング別置き式のサスでは、サポートプログラムは出来ない」と言っているのはこの為なんだ。

さて、おおまかに計測したデータを車検証に照らし合わせて策を練る。


ふむふむなるほど。

これにより、おおまかにリヤの最適スプリングと自由長が把握出来たので、皆さんにそれを報告。

フロント側のセッティングも合わせて処方。

今後、皆さんでそれを行う事となった。


フロントの車高調を活かし、コストは最低限で改善。

浮いたお金で楽しくモータースポーツ。イイね!

見物に来た3人も、このような作業は初めて見るらしく、一同感心していた。

さて、ここからが始まり。

今後もサポートしますから、とりあえず組み上げてまた連絡くださいね。


このチームは、あの「クラゴン部屋」の門下生の方々だそうで、

・鍛錬

・プレイ

などのクラゴン用語が飛び交っていた。


きっと運転に関しては問題ないだろう。

アレなクルマだったとしても、それなり乗りこなしてしまう。

だがそこが問題で、乗りこなせてしまうからこそ、道具の根本的な問題点に気付きにくいし、気づいても運転で合わせようとするクセも発生する。

「道具より腕前。下手な改造よりも修行」

それは研鑽というスタンスなら正解の心得。

だけど、

「足りない道具の性能を腕前だけで上回るのは不可能。やはり道具と腕前はどちらも大事」

というのが現実。

うえしま的には、

「自分の腕前よりも、ちょっと高い限界性能の道具を手に入れて、それを使いこなせる様に努力するのが楽しい」

と思っている。

さて、今後の皆さんの報告が楽しみだ。


今回はエッセ号の仕様がまだまだだったので、スプリング選定以外でうえしまは何も出来ず。

なのでお土産にヨシムラ号試乗会をした。

「やればエッセもこんなような動きになりますヨ」と。


皆さんそれぞれに思うところはあったようだ。


さぁ、レースは始まったばかり。

今後の動向が楽しみな うえしまである。


おしまい。