高木彬光の古本の値段に呆れる 25.10.03 | 棟上寅七の古代史本批評

高木彬光の古本の値段に呆れる 25.10.03

●一昨日が家人の77歳の誕生日だったこともあり、子供や孫たちから電話が次々とあり、パソコンに向かって、メールなどしながらその長電話を聞いている状態です。

携帯電話会社が、登録した3人までは通話無料、というので、夫婦で別の携帯を使うようにしたので、家人は友人や娘など6人に対して毎日のようにおしゃべりを楽しむ良い世の中になっています。「長電話は非常識」という昔の常識は通じない世の中になったようです。


●今月末になった高校同窓会の熊本でのゴルフ。そろそろゴルフ場への連絡などもしなければ、と一月前に出した出欠問い合わせに返事が無いのに督促をしなければ、とリスト作りなど初めています。この会も、あと1,2年かなあなどと思いながら。


●倭人伝の「里問題」をネットで検索していて、高木彬光氏の『邪馬台国の秘密』での問題はどうなったのか、と思い、amazonで古本のチェックをしました。

7年前にチェックした時には出ていませんでしたが、今回は光文社コレクション「新装版」という文庫本が百円で出ていたので取り寄せて読んでみました。


高木彬光氏は、一里を約百五十㍍という野津清という古代史研究家が『邪馬台国物語』で発表した説を使って、倭人伝を検討した結果「邪馬台国宇佐説」となった、と『邪馬台国の秘密』光文社カッパブックスを出され、40万部の大ヒットとなったそうです。続いて翌年二匹目のドジョウ狙いか『古代天皇の秘密』でもその手法を踏襲し宇佐から九州勢力の東遷説を展開しています。


それらの本で、名探偵「神津恭介」が邪馬台国探しの推理の基本的なところを、古田先生の『「邪馬台国」はなかった』の独創的な学説を大幅に取り入れていながら、古田のフもなく、断りも無い、盗作だとして古田先生が問題にされました。


この高木彬光氏の本の中で、古田先生が、気分が悪くなった、とされるのが神津恭介が語る次の文章です。

【・・・残った二つの問題は、不弥国と邪馬台国の距離、そして『陸行、水行』の謎、この二つを合理的に解決できればいいわけだね?」 そしてそれに対する解決方法の骨子は、左の四点でした。

(1)、「水行十日・陸行一月」は帯方郡治(ソウル付近)から女王国までにかかった日数だ。 

(2)、帯方郡西海岸は水行、韓国内部は陸行だ(東南方向のジグザグ行路)。

(3)、「一万二千余里」と「水行十日・陸行一月」は同一行路を指している。

(4)、不弥国は女王国と相接している。】 

このあなたの回答に対して、ワトスン(シャーロック・ホームズの相手)役の松下研三氏は、次のような大げさな讃辞を献げています。

【「おそれ入りました。神津先生・・・」研三は椅子から立ち上がって頭を下げた。「たしかにコロンブスの卵です。言われてみればそのとおり、どうしていままでの研究家がそこに気がつかなかったか、ふしぎでたまらないくらいですよ」・・・「まったくあなたという人は・・・毎度のことですが、完全に舌をまきました。あんまりショックが大きいんで、何とも言えないくらいですよ」・・・何だか頭がしびれてきた。眼尻があつくなってきた。芳醇なワインにでも酔ったような気持ちがしたのだった。・・・(中略)「今までの研究家がそこに気がつかなかったか、ふしぎでたまらない」とは、いったい何でしょう。その上、「コロンブスの卵」とは! わたしはまじまじとこの活字を見つめ、深いためいきをつくほかありませんでした。】


と、この様にご自分の『「邪馬台国」はなかった』の本質的なところが、無断で神津恭介の推理とされていることに古田先生は問題とされたのです. この件については、古田先生が『邪馬壹国の論理』「神津恭介氏への挑戦」(下記のURL)で詳しく述べられていますのでそちらに譲ります。

http://www.furutasigaku.jp/jfuruta/tyosaku13/yamaic51.html


●ところがこの話には後日譚があります。古田先生が光文社を通じて「盗作」ではないか、と問い合わせ、紆余曲折ののち、光文社はこの『邪馬台国の秘密』を絶版とされ、一九七九年に改稿新版を出されました。


この経緯について古田先生は、雑誌『なかった 真実の歴史学』第四号「敵祭 松本清張さんへの書簡」に書かれています。これは次のURLで読むことが出来ます。 

 http://www.furutasigaku.jp/jfuruta/nakatta4/tekisai4.html  


高木彬光氏が亡くなったのは1995年です。歿後10年目に高木彬光コレクション版として光文社文庫『邪馬台国の秘密』「新装版」が出ました。今回手に入れたのはその古本です。そこには、古田先生が指摘されたところが、各所改訂されていて前出のところは、次のようになっていました。


【「おそれ入りました。神津先生・・・」研三は椅子から立ち上がって頭を下げた。「余里の解釈はたしかにコロンブスの卵です。言われてみればそのとおり、どうしていままでの研究家がそこに気がつかなかったか、ふしぎでたまらないくらいですよ」・・・(中略)「何だか頭がしびれてきた。眼尻があつくなってきた。芳醇なワインにでも酔ったような気持ちがしたのだった。」】

というように「余里」という点の解釈が神津恭介の新発見という形に変えられています。そして、参考図書として元の版にはなかった『「邪馬台国」はなかった』・『邪馬壹国の論理』が挙げられていました。


●ついでに書きますと、高木彬光氏は『邪馬壹国の陰謀』という本を、古田先生との盗作問題のさなか、1978年に日本文華社から出され、その中での古田武彦氏に対する罵詈雑言はひどいものだそうです。今回amazon社で古本検索しましたら、稀覯本〈きこうぼん〉扱いで一万五千円という、驚くべき値段がついていました。