2017/08/06 | らくご聴いたまま

らくご聴いたまま

落語に関するブログ

◆8月6日

一朝を聴く会(日本橋亭)

一花『幇間腹』(二ツ目になる準備ネタ。若旦那のうちの猫が可愛い。芸者の名が一花・笑。一八が軽快で明るい。「明日から二ツ目になれる」って一八の夢には受けた。オチで調子を下げちゃまずい)/一朝『巌流島』/一朝『黄金餅』//仲入//一朝『唐茄子屋政談(通し)

★一朝師匠

『唐茄子屋政談』

矢来町の調子でマクラから勘当、吾妻橋の身投げまで「地」中心に運ぶ。徳三郎の「助けて下さい」がリアルで矢来町離れをした若旦那になる。会話のカットバックで伯父さんのうちでの会話になる(師匠に伺ったら、日本橋亭の終演規定時間を考えての短縮との事。)。伯父さんは怖過ぎないのがいい。膝に穴の開いた股引きを着せ、碁石の足袋を履かせた伯父さんの「今年の流行りだ」の繰返しは可笑しい。伯父さんの啖呵のキレから小言の調子、徳三郎の「じゃ今夜」のフワッとした可笑しさは無類。「膝でヒョイヒョイと調子を取るんだ」は初耳の科白かな?徳三郎の「相手は唐茄子」の間抜けさは可笑しい。江戸っ子の「泣くんじゃねェ」も初耳だと思う。「お湯屋のお光さん」って名前も初耳。吾妻橋の婆さんは耳が遠いので江戸っ子が大声になるのは面白い。半ちゃんの前で「三年前に居候してた事があるだろう」と世間中に聞こえるように調子を張るのも可笑しい。「待てこの野郎!」の声の大きさは本当に素晴らしい。唐茄子を売り尽くしてくれた江戸っ子の「ああ、草臥れちまったな」も大笑い。売り声の稽古の最初、ヒョットコみたいな口元になるのも大笑い。吉原田圃で稽古をしながら、「一生懸命稼いで遊んでやるんだ」や「ついその気になっちゃう。馬鹿だな」は初めて聞いた科白だと思う。唄は「伸び上がり」。誓願寺店のおかみさんは科白・仕科共に見事な品がある。弁当箱は柳葛籠だから。子供の「唐茄子じゃなくておまんまたべたいんだ」も良いが、子供の「おじさん、どうも有難う!!」のひと言は、どうしても陰気になりがちな誓願寺店の場面を明るくして素晴らしい。おかみさんは子供がおまんまをかっこむ姿を見て「みっともない」と徳三郎の前で頭を下げる。徳三郎は同情して涙ぐむ(伯父さんの前でも誓願寺店の話をして涙ぐむ)。銭をおかみさんに渡すと、直ぐに徳三郎が伯父さんのうちに戻った「ただいま」に繋がるカットバックも無駄がない。徳三郎が唐茄子を全部売ってきたと知った伯父さんが上機嫌で徳三郎を扇子で扇ぐのは面白い。本当に「地」の無駄が殆どない演出だった。誓願寺店の住人の「へッ?!」の軽さは一朝師匠ならではの楽しさ。徳三郎のあげた銭を大家が横取りして、おかみさんが首を吊るまでの顛末は糊屋の婆さんが説明してみせる。それを聞いた徳三郎の「伯父さん、一寸行ってきます!」、それを見た伯父さんの「徳、滅多な事をするんじゃねえぞ」の意気も良い。45分で見事に江戸っ子の意気を描いて、あくまでも落語である辺り、流石一朝師匠と言うしかない。

『黄金餅』

西念に病人乍ら、愛嬌と必死さがあるのが面白い。金兵衛はさもしくの見えないのが良い。普通の貧乏人で、偶々西念の金飲み込みを見て、ちょいと欲が出たという雰囲気。山崎町から木蓮寺への道中付けは少し滑らかさに欠けたのが残念。和尚の酔っ払い方は強烈で、無茶苦茶なのが実に可笑しい。金魚経は欠伸から始まり、「虎が泣いては大変だ」と「テケレッツのパッ!!」が一番可笑しい。木蓮寺から桐ヶ谷の焼き場への途中で金兵衛が「夜中の二時か」と言ったのはミスじゃないかな?桐ヶ谷への道々、金兵衛の愚痴は重くならないのが良い。焼き場で金兵衛が叫ぶ「焼けッ!!」の勢いなど、エネルギッシュで実に良い出来。金兵衛に叱られた隠亡の当惑した表情も愉しい。金兵衛が骨灰を払い乍ら、無我夢中で金を懐に入れる仕科も普段より遥かにエネルギッシュ。寄席の主任より短いくらいの尺で、道中付け以外は非常にテンポの良い、張りのある面白い出来だった。

『巌流島』

つ花連で作った言葉遊びから回文の話へ展開して本題定番のマクラへ。若い侍の猛々しい様子と船頭の惚けた口調、乗り合いの町人たちの野次馬根性と、トライアングルになった面白さがある。老武士はいつもより少し柔らか目かな。嵩に掛かってくる若い侍の勢いは鮮やかなもの。野次馬の「なぁに言ってやがんだ」の意気の良さ!にも感心。船が岸に着くと、船中の客がみんな立ち上がる、という描写はこの噺では初耳。 若い侍を岸に置き去りにした後の、船中の野次馬同士のやり取りも若手の演じる野次馬連中より、遥かにトッポくて馬鹿ばっかり()。老武士が槍を構えて水面を見る視線の厳しさも素晴らしい。終始、テンポの良い会話の連続で成り立った極上の高座だった。