小銭の数を数える女性。ヒールの高いパンプスが目立つ。
服装は水商売用スーツ、ミニスカートに黒いストッキングをしている。
正月だというのに、気分が良くない。あれもこれも、さっきの怪獣達のせいだ。


「はぁ~…………」



靴屋とホステスを兼業しながら、稼いだ金銭の入ったバッグが何処かへ行ってしまった。
本当についてない。



「正月だし、シャンパンでも買おうかと思ってたのになぁ」


シャンパンどころか、コーラくらいしか飲めない。気分を紛らわすためにコーヒーを飲もうと、女性は自販機の前に立つ。
すると、大きいバッグを持った少女が現れた。少女といっても、高校生くらいではあるが、袴を着ている。
巫女のバイトだろうか。いや、そんなことはどうでもいい。


「あぁァッ!あんた、それは私のバッグよ!」


自分の紫色のバッグ。地獄に仏、まさにこの通り。


「違います!これはボクがさっき拾ったんです!」


娘はバッグを庇うように抱え、放そうとはしない。


「だから、それは私…………ん?。あんた、″ツボ押し女学生″ね」


「…………!!。″パンプス姑娘″…………」


お互いの正体に気づいた2人。妖力を解放し、真の姿へと変わった。
ヒールの女性は、赤いチャイナドレス風の上半身・黒いストッキングを纏った下半身をした怪人へと変わる。
顔は京劇風の隈取りが施された靴箱型の顔、その中心には一つ眼。
赤色のハイヒールが両耳として付いている。
女性の正体は、パンプス姑娘というゴーマ怪人だったのだ。
一方、少女は袴を残したまま足裏のような上半身、白い下半身を持つ怪人へと変わっていく。
足裏の顔の中心には一つ眼がある。少女もまた、ツボ押し女学生という怪人なのである。


「まさか、あんたが人間社会にいたとはね」



ツボ押し女学生は、人間界に潜伏して情報を流す諜報員である。
戦闘力は大したことがなく、普段は指圧のアルバイトをして生活を繋いでいる。


「ボクの事は放っておいてください!。パンプス姑娘こそ、なぜこんなところに?」


「私もあんたと同じよ」


パンプス姑娘人間界に潜伏してはいたが、任務を与えられる前に大神龍が襲来。
休戦協定によって、打倒ダイレンジャーは露と消えたのだ。


「大神龍はダイレンジャーが滅ぼしたんでしょ?。なら、なぜゴーマは休戦協定を守る?」


「逆です。あんな化け物を倒せるダイレンジャーに警戒をしてるんです」


大神龍を撃破した皇王大連神の情報はゴーマにも伝わっていた。
阿古丸一派の裏切りもあり、今のゴーマは勢いを増したダイレンジャーと戦うには早計だという声が大きい。
それに加え、道士嘉挧とシャダムの″密約″によって休戦協定は保たれているといい。


「そんで、その密約ってのは何なのよ?」


「ボクの知るところはそんなところしか…………」


諜報員とはいえ、末端の中の末端であるツボ押し女学生では全容を知ることはない。


「…………それよりアンタ、私のバッグ………………」


忘れかけていたが、自分のバッグを返してもらっていない。


「でも、これをください。ボクの生活費に回させてください」


何と図々しい奴だ。その気になれば怪人化して強盗もできるだろうに、人間に染まってしまったらしい。


「はぁ~…………じゃあ、正月くらいは私と過ごす?」


同じゴーマのよしみだ、助けてやろう。
ツボ押し女学生は何回も頷く。本当に大変な生活なのかもしれない。


「じゃあ、まずシャンパンと餅を…………」










″シュッ!″











『!!?』


2人は妖しい気配を感じて、その場から下がる。
途端に自動販売機が爆破し、炎上してしまった。


「何者!?」


パンプス姑娘は蹴りを主体とするパンプス拳の構えをとる。
ダイレンジャー?。いや、違う。気力でもなければ、妖力でもない。
視線の先にいるのは、朱いマツボックリのような怪物だ。


「アンタ、ゴーマじゃなさそうね」


「我はヤプール。暗黒より生まれ、すべてを暗黒に帰す者よ」


現れたのは、ジャッカル四天王の一人であるヤプール。
次元移動と、この世界を構成するヤプールにとっては未知のエネルギー…………即ち気力と妖力。
その影響で、本来の大きさでは活動できないらしい事がバット星人によって知らされている。
なお、怪獣達はマイナスエネルギーコーティングで本来の大きさを保っていたが、四天王は理性を失うリスクがあるために避けているのである。


「貴様達を超獣へと改造してやろう…………」