「俺の胃袋は宇宙だ。名作大食いバトルドラマ」
大食いブームの最中、2000年日本テレビ系土曜ドラマとして放送された
「フードファイト」
絶大な人気から「香港死闘篇」、「深夜特急死闘篇」の2本のスペシャルも放送され、
15年前の作品でありながら今もなお根強いファンは多い。
しかし、ゲスト出演したいしだ壱成、羽賀研二の逮捕や
フードファイトをまねた小学生がパンを喉に詰まらせ死亡してしまった事件など
様々な不遇が重なり、未だに一切のソフト化されていない。
それでもふと思い出すごとに観たくなってしまう「フードファイト」。
ある動画サイトで今も辛うじて鑑賞することが出来るので、
ちょこちょこ見直しました。
「面白い!」それが素直な感想だ。
今見ても、結末を知っていても
決して色あせないその興奮はなんなのか。
舞台は大手食品会社の地下施設。
莫大な富から止まらむギャンブル欲と
老いとともに減退した食欲を他者による大食い勝負で視覚的に楽しむ
セレブの賭博ゲーム「フードファイト」が行われていた。
より多くを食べた者が勝つ。
そんな1対1の大食いバトルで王者として存在する男が
草彅剛演じる主人公の井原満。
彼は幼き頃にお世話になった孤児施設にその賞金を匿名で寄付していた。
次々に現れる強豪フードファイターとの壮絶なバトルが繰り広げられていく。
一話完結の物語はシンプルさゆえ展開こそ似ているが、
各話で登場する個性豊かな豪華キャストが異なる味付けとなり
その熾烈な大食いバトル、並行する心理戦に毎回興奮してしまう。
またシリーズ通して描かれる深田恭子演じる田村麻奈美と満の恋愛模様が
パンチのある隠し味となり、家族で楽しめるコミカルさを生んでいる。
蓋を開けてみれば野島伸司原案。
そして主題歌にSMAPの「ライオンハート」。
満の親友として存在する九官鳥の声を木村拓哉がやっていたのだから、
面白くないわけがないのだ。
多種多様にわたる大食い食材はグルメ番組要素も兼ね備え空腹を刺激するが、
がん細胞によって二つの胃袋を持つ佐野史郎演じる宿敵 宮園恭作との最終バトルでは
一転して「銀シャリおいぎり」という質素なものになる。
しかし、そこに日本人としての武士道と
男を支える女の愛情を描く構造を創り出し
最終回として最高の出来となっている。
各勝負での勝利後、満の捨て台詞として発せられる
「俺の胃袋は宇宙だ」のキャッチーさに
真似した少年は数を知れないだろ。
続編「香港死闘篇」は舞台を海外に移して
日本VS香港という国際フードファイトにスケールを広げる。
香港代表に小川直也、河村隆一、安達祐実とまた豪華なキャストを揃え、
さらには日本代表に過去の挑戦者を持って来ることで
スペシャルらしいお祭りらしさで盛り上げる。
失踪していた満は記憶喪失となり王者としての食欲を失っていたが
香港王者との「小籠包」大食いバトルの中で覚醒するクライマックスの追い上げは
シリーズ最高峰の盛り上がりとなり、
孤児院に舞い戻り麻奈美と再会することで「フードファイト」に一区切りをつけた
良いスペシャルドラマとなっている。
そして物語は新章へ。
続く「深夜特急死闘篇」。
孤児院の子供たちとの旅行帰りの深夜特急が
何者かに仕掛けられた爆弾によってハイジャックされてしまう。
先の車両に待ち受ける7人のフードファイターとの連続大食いバトルが繰り広げられる。
岸部史郎、泉ピン子、岩崎杏里、いっこく堂、桂歌丸、榎本加奈子、
そしてラスボスに萩本欽一という2時間ではもったいないほどのキャストと、
次駅を通過するまでの時間内で有名駅弁大食い勝負をしていく
電車という舞台を最大限に使った展開を見せる。
面白いのがヒロインである深田恭子演じる麻奈美、
孤児院院長の八千草薫演じる三好悠子、
さらには満のセコンド役を担っていた少年 潮崎祐太までもが
フードファイトに参戦するという
前作とはまた別のお祭り騒ぎとなり、
始終フードファイトの連発なためテンポよくただただ楽しめる。
そして、数多くの駅弁を食べ尽くし到達する1号車両。
胃の限界を超えた満を待ち受けていた
萩本欽一演じるミスター・Kとの戦いは不利としか見えなかったが、
ミスター・Kは満と同量、それ以上の駅弁を平らげ
来たる最終勝負を待ち受けていた。
結果、正々堂々の「肉めし弁当」真っ向大食い勝負に敗北を喫する満。
「私の胃袋は大宇宙だ」
ミスター・Kのその捨て言葉はシリーズ最強の敵としての地位を築いた。
そして、彼の口から満の妹の存在が語られる。
彼女もまた兄同様の強者フードファイターであることが明らかになり、
これ以上にない後味を残して終わる。
ミスター・Kとの再戦、
フードファイター兄妹同士によるフードファイトが
この先の新たな死闘展開として期待されたが、
不遇の小学生死亡事故によってそれ以降続編が制作されることはなかった。
その人気から映画化されることも十二分に考えられただけに
こんな残念なことはない。
大食いがまた密かなブームになりはじめた昨今だが、
衰えることを知らないSMAPの人気、
主要キャストがキャリアをしっかり積み上げたことから
もう「フードファイト」の結末を見ることは出来ないだろう。
せめて小説版でもいいので野島伸司さんには執筆してもらいたい。
不朽にして不遇。
それでも決して冷めることはなく、
ふと火が灯れば大きく燃え上がる名作だ。