奏がGCUに移る前後から私は少しずつ動き出していました。
病院常駐のケースワーカーのところへ行ったり、
施設に直接問い合わせをしてみたり、
ネットをひたすら検索してみたり…
でも、どこへ問い合わせても、
手術しないと受け入れの検討すらできないという答えばかりでした。
原則論があるのはわかる。
でも、個別事情を全く汲んでもらえないものなのか…
私は限界を感じ始めていました。
並行して奏の水頭症も着実に進行していました。
頭囲の拡大を防ぐために1日の水分摂取量が制限されていましたが、
それでも頭は着実に大きくなっていました。
週末の休みにしか奏に会えないパパは、会うたびに大きくなる奏の頭を見て
「早く手術をしてあげたい」と口にする回数が増えていました。
落陽現象も出現して、黒目が下に落ち込んでしまう時間も増えていました。
そしてある日、面会中に奏が無呼吸発作を起こしました。
突然、呼吸数を示す数値がガクンと下がってアラームが鳴り始めたと思うと
奏の顔がみるみる紫色に変色していきました。
駆け寄ってきた看護師さんが酸素マスクをあてて呼吸を補助すると、
奏はすぐに呼吸を戻し、元の顔色に戻っていきました。
それまで、呼吸発作が起きたという報告は何度も受けていたし、
チアノーゼという現象も理解していたつもりでした。
今、目にした発作はおそらく10秒にも満たないわずかな時間。
でも、発作を初めて目の当たりにする私は完全に取り乱していました。
ダメだ、あと何ヵ月もこんな状態の奏を平常心で見守れるわけがない。
帰ってからパパに見たままを報告しました。
私たちは考えました。
「やっぱり児童相談所に直接行くしかないのかな…」
病院のケースワーカーさんからはこう言われていました。
「お父さんお母さんがどうしても手術前に施設を探したいということであれば
児童相談所に直接出向いてもらうしかないですね」と。
但し、私たちの要望を行政がどう判断するかはわからない、とも言われました。
先に施設を探そうとする私たちのやり方は
"手術を拒否している"、つまり医療ネグレクトと見なされる可能性がゼロではないという意味でした。
そして、出産前に話を聞きに行った福祉関係の人たちが共通して言っていたのは
どの担当者に当たるかで話は大きく変わるということ。
奇しくも、施設入所の窓口もネグレクトを扱う窓口も児童相談所。
もし、イマイチな担当者に当たって、
私たちの真意を汲み取ってもらえず形式的にネグレクトと見なされたら…?
私たちが調べる限り、理論上は行政の力で強制的に手術することは可能。
ただ、現場の実務としてどう判断されるのかはさっぱりわかりませんでした。
病院のケースワーカーさんも行政の出方は全く予想がつかないと言っていました。
理解してもらえるのか、してもらえないのか、やってみないとわからない。
自分でも相当調べましたが、所詮は本やネットの情報に過ぎず、
何も確たる情報を得ることはできませんでした。
この不安は私たちをかなり躊躇させました。
裏目に出てしまったときのリスクが高過ぎる…
児童相談所に出向くのは本当に最後の手段だ。
でも、ほかにどうすれば良いんだろう?
何らかのリスクは取らなくてはいけない。
奏もいつまでもこのままにはしておけない…
もう時間がない。
私は焦りが募る中、施設入所以外の方法をもう一度考えてみることにしました。